「世界観」のつくり方
熱狂的なファンを生み出す
「世界観」のつくり方
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「世界観」のつくり方
出版社
日本実業出版社

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出版日
2025年03月10日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

映画やドラマ、アニメ、ゲームなどのコンテンツにおいて、いまや絶対に外せない要素が「世界観」である。かつて「世界観」とは文字どおり「世界を見るひとつの観点」を指していたが、現在はそのストーリーにおける「世界設定」を意味するようになった。著者によると、この傾向が顕著になったのは2010年代である。

「世界観の構築」に成功したコンテンツの1つが、映画シリーズ「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」である。MCUには『スパイダーマン』『アイアンマン』『アベンジャーズ』といった多くのヒット作品が存在するが、ある映画の主役キャラクターが別の映画に脇役として登場したり、また別の作品ではそれぞれの主人公たちが一堂に会したりと、各映画は独立しながらも、シリーズ全体で1つの世界観を構築している。

本書の著者は、韓国の制作会社でコンテンツの企画・開発を担うプロデューサーであり、長年にわたり映画やドラマ制作に携わってきた。時代の移り変わりとともに、近年急速に台頭してきた要素が「世界観」だという。

世界観についての歴史はまだ浅く、その研究も発展途上である。本書では、様々なコンテンツを例に挙げながら、人々の心を掴み、熱狂を生み出す「世界観」のつくり方について解説している。

現代のコンテンツ制作において、「世界観」の設定は最重要項目といっても過言ではない。クリエイターでなくとも、自分がなぜそのコンテンツに惹かれるのか、なぜつい見てしまうのかを紐解くことで、ビジネスにも通じるヒントが得られるはずだ。

ライター画像
矢羽野晶子

著者

イ・ジヒャン
漢陽(ハニャン)大学で映画、韓国芸術総合学校で芸術経営を専攻。ドラマ「タムナ~Love the Island」をはじめ約10年にわたりドラマと映画の脚本を手がけ、ローカライズ会社でグローバルOTTプラットフォームのトランスクリエイターを務めた。
韓国の制作プロダクション兼出版社である「安全家屋(SAFE HOUSE)」でチーフストーリープロデューサーとしてコンテンツの企画と開発を統括し、現在は電子書籍プラットフォーム「ミリーの書斎」でIPを企画・開発している。人の心を揺り動かす物語の力を信じ、創作者と市場の橋渡しをしながら、好きな物語が長く愛されるために必要なことを工夫し実践している。

本書の要点

  • 要点
    1
    世界観とは、現実とは異なる要素でつくられた「架空の世界」、およびその世界を構築する「世界設定」である。
  • 要点
    2
    世界観の構築には、「キャラクター」「時空間」「トーン&ムード」「設定」の4つの要素が必要だ。
  • 要点
    3
    キャラクターは見る人が感情移入できる存在でなければならない。そのためには「共通性」「憧れ性」そして「哀れみ」というポイントを踏まえる必要がある。
  • 要点
    4
    新しい世界の枠組みをつくる際は「もし〜だったらどうだろう?」と仮定してみよう。

要約

世界観とは何か

実在しそうな架空の世界
da-kuk/gettyimages

「世界観」とは何か。本書では世界観を、現実とは異なる要素でつくられた「架空の世界」、およびその世界を構築する「世界設定」と位置づける。ここでは、映画『ハワード・ザ・ダック』(1986年)を例に、世界観について説明したい。

主人公は、ドナルドダックにそっくりなアヒルのハワードである。しかし、ドナルドとは異なり、無愛想でふてぶてしく、しかも他の星からやってきた異星人という設定だ。映画の登場人物たちは、この“人語を話すアヒル”をなぜかすんなりと受け入れ、彼を故郷の星へ帰すために協力する。著者はこの映画を「名作ではないが、なぜか忘れられない作品」と評している。

一般に、物語の構成要素は「人物」「事件」「背景」の3つとされる。『ハワード・ザ・ダック』における「人物」は人語を話すアヒルであり、「事件」は、地球に落ちたこのアヒルがさまざまな困難を乗り越えて故郷の星へ帰ろうとする過程である。「背景」としては、物語の舞台となるアメリカだけでなく、ハワードの故郷の星についても描かれている。

ユヴァル・ノア・ハラリは著書『サピエンス全史』において、「想像と虚構の世界を生み出したことこそが、人類文明発展の第一歩であった」と述べている。前述の3要素は、現実には決して起こり得ない。しかし、想像力を働かせることで、実在しそうな「架空の世界」を創造し、さらに時空間的背景やその他のルールを設定することによって、新たな「世界観」を生み出すことが可能になる。

『ハワード・ザ・ダック』では、“アヒル人間”を存在させるために、架空の惑星「ダックワールド」がつくられた。ダックワールドは、人間のように進化したアヒルが支配する、地球のパラレルワールドとして設定されたのだ。

この映画における物理学的・生物学的な整合性は、さほど重要ではない。それよりも重要なのは、物語としての蓋然性と、「もしかすると実際に存在するかもしれない」と思わせる想像力なのである。

ストーリーと世界観

ビジネスにおけるマーケティング戦略の1つに、「ストーリーテリング」がある。認知心理学者ジェローム・ブルーナーは、「物語を通して情報に接した場合、人はそうでない場合と比べて、情報を22倍記憶しやすくなる」と述べている。

とはいえ、人の記憶力には限界がある。どれほど感銘を受けた作品であっても、時間の経過とともに記憶から薄れていってしまう。そのため、人々が関心を持ち続けてくれるような物語や商品を生み出すには、何らかの仕掛けが必要となる。そして、その仕掛けこそが「世界観」であることに、いち早く気づいたのがビジネス業界の人々であった。

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要約公開日 2025.05.14
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