トリニティ組織
トリニティ組織
人が幸せになり、生産性が上がる「三角形の法則」
トリニティ組織
出版社
出版日
2025年07月11日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

「人事異動で一部の人が変わっただけで、なぜ拠点全体の業績が大きく伸びるのか」。この問いにあなたならどう答えるだろうか。

日立製作所フェローとして世界をリードする矢野和男氏は、20年以上にわたり「人と組織の謎」を解き明かそうとしてきた。ベストセラー『データの見えざる手』や『予測不能の時代』に心を動かされた方も多いだろう。本書で提示されるのは、「ファクターX」、すなわち人間関係の構造に潜む法則である。

驚くべきは、著者らが独自開発したセンサで「人の交流」を測定し、膨大なデータを解析した点だ。その結果、「V字」が多い組織は孤立感を生みやすく、「三角形」の関係性が多い組織は幸福度も生産性も高いことが明らかになった。たとえば、よく会話する相手を2人選んだとき、彼らが互いに会話をしない関係なら「V字」、会話する関係なら「三角形」となる。

タイトルの「トリニティ」とは、異質なものを結びつけ、新しい価値を生み出す思想だ。分断が深まり多様性のマネジメントに悩む現代だからこそ、大きな意義を持つ。1兆件ものデータに裏打ちされた科学的組織論は、まさに著者らの研究の集大成といえる。

組織の幸福と生産性は両方追求できる――。その根拠と実現への道筋を描く本書は、経営層や人事だけでなく、組織やコミュニティをより良くしたいすべての方の羅針盤となるだろう。何より、人と組織が飛躍するための試行錯誤こそ尊いプロセスだと気づかせてくれる。読後には、きっと身近な「V字」を「三角形」に変えてみたくなるはずだ。

ライター画像
松尾美里

著者

矢野和男(やの かずお)
株式会社日立製作所 フェロー。株式会社ハピネスプラネット代表取締役CEO。1959年山形県酒田市生まれ。1984年早稲田大学物理修士卒。日立製作所入社。91年から92年まで、アリゾナ州立大にて共同研究に従事し、帰国後1993年に単一電子メモリの室温動作に世界で初めて成功し、ナノデバイスの室温動作に道を拓く。その後、データを活用した人間や組織研究とそのためのウエアラブル技術のパイオニアとして論文被引用件数は4500件、特許出願350件を越える。米「ハーバードビジネスレビュー」誌に、開発したウエアラブルセンサが「歴史に残るウエアラブルデバイス」として紹介される。産業分野へのAI活用を牽引し、開発した多目的AI「H」は、物流、金融、流通、鉄道などの幅広い分野に適用された。組織、生産性、心理学、人工知能からナノテクまでの専門性の広さと深さで知られる。著書『データの見えざる手』(草思社)が、BookVinegar社の2014年ビジネス書ベスト10に選ばれ、2021年には『予測不能の時代』(草思社)を上梓。人や組織の幸せをデータで追求した一連の活動は、米ハーバードビジネススクールのケースになり、世界のMBA教育で活用されている。2020年に株式会社ハピネスプラネットを、日立からスピンアウトして設立し、代表取締役CEOに就任。博士(工学)。IEEE Fellow。電子情報通信学会、応用物理学会、日本物理学会、人工知能学会会員。日立返仁会 副会長。1994 IEEE Paul Rappaport Award、1996 IEEE Lewis Winner Award、1998 IEEEJack Raper Award、2007 Mind, Brain, and Education Erice Prize、2012年Social Informatics国際学会最優秀論文など国際的な賞を受賞し、「人間中心のIoT技術の開発と実用化に関するリーダーシップ」に対し、2020 IEEE Frederik Phillips Awardを受賞。

本書の要点

  • 要点
    1
    V字の関係は「用事だけのつながり」であり、孤立感やストレスを引き起こす。一方で、三角形の関係性を持つ組織は、孤立感が減り幸福度も生産性も高まる。強い三角形と弱いV字の両立こそが、幸せなつながりの理想形である。
  • 要点
    2
    複雑さを受け止めるには多様性が必要となる。そのためのカギは、分割を越え、統合を志向する思考法、「トリニティ・シンキング」だ。

要約

孤立社会は誰がつくったのか?

幸せに法則性を見出す

幸福な人や集団の実態は多様である。だからこそ、統一的な法則が見出せれば、人生や社会を大きく変えられる。

これまでは幸せな状態かどうかの調査方法が限られていた。そこで著者らは、独自のウェアラブルセンサや、人間行動をより多角的に映し出す計測機器を開発し、膨大な定量データを集めた。また、個人が感じる「幸せ」「孤独」などの心理要因を調べた定性データも加え、総合的な分析を行った。その結果浮かび上がった、幸せや生産性を左右する決定的な要素「ファクターX」について述べていく。

コミュニケーション量は孤立感と関係ない

現在、孤立感の広がりは社会の病といえるほど深刻な影響をもたらしている。孤立を感じる人は、うつ傾向やうつ病に陥りやすい。孤立感は周囲にも広がり、生産性や創造性の低下を招くうえに、身体的な健康リスクを高めることが知られている。

重要なのは、孤立感は主観的な現象ということだ。周りにたくさん人がいて会話が多いことと、孤立を感じることは別物である。現に、つながりの数やコミュニケーションの時間が多い人たちと少ない人たちの孤立感の数値に有意な差は見られなかった。

孤立を感じる人の周囲にはV字が多い
Capuski/gettyimages

孤立感を抱きやすい人には、人間関係の「形」に特徴がある。あなたと会話する相手を2人選んだとき、AさんとBさんが互いに会話をしない関係なら「V字」、会話をする関係なら「三角形」となる。著者らの解析によれば、周囲にV字が多い人は孤立感を抱きやすく、三角形が多い人は抱きにくい。つまり、V字と三角形のどちらがその人の周りに多いかが、孤立感を左右するのだ。

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要約公開日 2025.09.14
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