経営者のための正しい多角化論
経営者のための正しい多角化論
世界が評価するコングロマリットプレミアム
経営者のための正しい多角化論
出版社
日本経済新聞出版

出版社ページへ

出版日
2025年06月25日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
要約全文を読むには
会員登録・ログインが必要です
本の購入はこちら
書籍情報を見る
本の購入はこちら
おすすめポイント

目からウロコが落ちる本である。要約者にとって最大の発見は、「米国企業GEのカリスマ経営者として知られるジャック・ウェルチが唱えて有名になった『選択と集中』は彼の言葉ではない。彼は『新しい試みを積極的にやっていこう』という意味で、『Focus』という英語を使っただけだ」という部分である。

著者いわく、1999年以降「選択と集中」なる翻訳語は独り歩きし、事業多角化の否定であったり、リストラの推進であったりという間違った文脈で使われるようになった。実のところウェルチはCEO時代、多くの多角化を進め、新しくはじめたビジネスユニットは約1000にもなるというのに。日本の“失われた30年”の一因はこれだったか、という思いである。

1958年に出版された『日本の経営』という本を思い出した。実はこれも同じ構図であり、著者のジェームズ・アベグレンがこの本で指摘した「終身雇用」の原語はLifetime Commitmentで、終身雇用のより正確な英語であるLifetime Employmentではなかった。それなのに、終身雇用という言葉がいつの間にか独り歩きし、「日本は終身雇用の国だ」という定義に国中が覆われてしまった。言葉の翻訳は実に難しい。特に欧米からの指摘を過度に尊重しがちな日本においては。

それはさておき、「多角化を進めよ」というシンプルな主張ながら、読み手の目からいくつものウロコを落とすであろう本書。企業の経営者や経営企画室の面々はもとより、機関投資家、投資ファンドで働く人たちなら、目を通すべき必読本ではないだろうか。

ライター画像
荻野進介

著者

松岡真宏(まつおかま さひろ)
株式会社YCP Japan 代表取締役
東京大学経済学部卒。野村総合研究所やUBS証券で小売・流通セクターの証券アナリストとして活動後、産業再生機構を経て、独立系コンサルティング会社を共同創業し、東証プライム上場企業へと成長させた。2025年1月より現職。カネボウ、ダイエー、アルピコホールディングスなど、再建案件を中心に10社以上の取締役に就任した経験を有する。『持たざる経営の虚実』『宅配がなくなる日』『時間資本主義の時代』(いずれも日本経済新聞出版)など著書多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    コングロマリットは、株価やビジネスを押し下げるようなディスカウント要因ではない。不確実性が増す現在は、むしろ株価や業容を押し上げるプレミアム要因である。
  • 要点
    2
    バブル崩壊後の日本の経営者は利益減少を恐れ、設備投資を過少にし、人件費を必要最小限にした。今後の日本企業は、売上高伸長の戦略を強化すべきである。
  • 要点
    3
    アメリカでも欧州でも、コングロマリットが経済を牽引している。
  • 要点
    4
    日本企業は「選択と集中」をやめ、積極的に多角化を推進するべきだ。

要約

なぜバフェットは日本の商社に本格投資したのか

投資の神様が認めた「日本型コングロマリット」

2020年8月31日、“投資の神様”ウォーレン・バフェットによる日本の商社株投資が報じられた。自身の投資会社「バークシャー・ハザウェイ」が、関東財務局に複数の大量保有報告書を提出したのである。バフェットは子会社を通じて、五大商社株(三菱商事、三井物産、住友商事、伊藤忠商事、丸紅)の発行済み株式の5%超を取得した。

これまで日本では、商社のビジネスモデルは評判が芳しくなかった。事業があまりにも多岐にわたり、外部から見てわかりにくいというのがその理由である。株価もその影響で割安に放置されている(コングロマリットディスカウント)と言われてきた。

ところが、バフェットは、日本の商社が「世界中で合弁会社を作っている」ことを高く評価し、それらが「将来、相互に理解をもたらす機会があると望んでいる」とコメントした。つまり、コングロマリットや多角化に将来性を見出しているということだ。

バフェットの投資は「商社株は価値がある」というシグナルと受け取られ、他の投資家たちも商社投資を再評価し始めた。実際、商社の代表的企業、三菱商事の株価はバフェットによる投資が明らかになってから、4倍以上に跳ね上がった。

「コングロマリット」とは何か
2ndpic/gettyimages

「コングロマリット」とは、複数の異なる事業を抱える企業を指す経済用語である。日本語訳にすると「複合企業体」となる。

混同されやすいものに「コンツェルン」があるが、これは子会社・グループ会社を通じて、「同一産業の独占」を目的とした企業グループのことである。一方、コングロマリットは「複数の異なる事業」を所有することで、事業リスクの分散や収益の安定化を可能とする仕組みだ。総合商社、総合小売、総合電機など「総合」と付くものは、すべてコングロマリットの一種である。

もっと見る
この続きを見るには...
残り3758/4538文字

4,000冊以上の要約が楽しめる

要約公開日 2025.09.20
Copyright © 2025 Flier Inc. All rights reserved.
一緒に読まれている要約
15秒!集客革命
15秒!集客革命
仲野直紀
トリニティ組織
トリニティ組織
矢野和男平岡さつき(協力)
教養主義の没落
教養主義の没落
竹内洋
採用の新基準
採用の新基準
秋山真
町の本屋はいかにしてつぶれてきたか
町の本屋はいかにしてつぶれてきたか
飯田一史
忘我思考
忘我思考
伊藤東凌
新しい階級社会
新しい階級社会
橋本健二
株で儲けたきゃ「社長」を見ろ!
株で儲けたきゃ「社長」を見ろ!
田端信太郎