竹中平蔵×ムーギー・キム 師弟対談
『最強の生産性革命』発刊記念。働き方改革を斬る!

働き方改革が進む今、ビジネスパーソンも企業も「生産性を高める」ことが至上命題とされています。果たして、「生産性アップ」は、人と企業を幸せにすることにつながっているのでしょうか。そこに切り込んだ待望の書が『最強の生産性革命』(PHP研究所)です。

著者は、東洋大学教授、慶應義塾大学名誉教授の竹中平蔵氏と、世界中のエリートの働き方に詳しく、ビジネス書著者としても有名なムーギー・キム氏。出版を記念し、二人による対談セミナーがアカデミーヒルズにて開催されました。働き方改革の理想と現状のギャップをどう埋めればいいのでしょうか。

2年間で100名の名医に聞いた「最強の健康法」

まずは、キム氏による講演からスタート。個人の生産性を高めるうえで大事なのは、健康管理。キム氏は2年間で100名の名医に「最強の健康法」を尋ね、それを新著として執筆中だといいます。

キム:名医たちが共通してすすめているのは、1日1時間歩くこと。免疫力が高まり、がんや糖尿病、脳梗塞などの予防にもつながる。さらには、セロトニンやアドレナリン、ドーパミンといった、興奮と集中を高めるホルモンが出ることにより、仕事や勉強の生産性も上がる。これは歩くしかないでしょう。

食べ物では、ブロッコリーがおすすめ。ブロッコリーに含まれるファイトケミカルに抗酸化作用があるためです。1日1時間歩いて、ブロッコリーを食べる。こうした習慣を取り入れるかどうかで、数十年後の自分が変わってきます。

ガラパゴス上司にならないための「逆三角形経営」

キム:最近、若くて優秀な人材が会社をやめていくスピードが速まっています。その理由は、彼らの能力が高く、人口動態的にも若い人材が少なくて、ひっぱりだこだから。
『世界一速く結果を出す人は、なぜ、メールを使わないのか』の著者、ピョートル・フェリークス・グジバチさんにこんな質問をしました。グーグルの人事制度で、組織の生産性に一番効いたのは何か。それは「(グーグルの組織が)逆三角形のピラミッドになっていること」。現場の最前線にいる若手人材が活躍できるよう、マネジメント層が全力でサポートする。こうした体制が生産性向上の秘訣だというのです。

逆に、部下を使うという発想で、いばりちらしているだけの上司は、世界的に見ると「ガラパゴス上司」。インドの名門企業で働くビジネスパーソンたちによると、一流の上司の条件は、「部下が自分と働くことで、市場価値を高められているか、部下の自己実現を助けられているか」だそうです。

「ブルー・オーシャン戦略の本質がきちんと理解されていない」

つづいてキム氏と竹中氏との対談へ。最初のトピックは、ブルー・オーシャン戦略の真髄についてです。

キム:INSEAD在学時にお世話になったチャン・キム教授は、『ブルー・オーシャン戦略』や2018年に日本語版も発刊予定の『ブルー・オーシャン・シフト』の著者です。彼によると、ブルー・オーシャン戦略の本質が、ビジネスパーソンにきちんと理解されていないそうです。キム教授の一番の主張は「真のイノベーションとは、従来の競争軸を無意味にする新しい発想や、コラボレーションから生まれることが多い」というもの。つまり、ブルー・オーシャン戦略の真髄とは、既存の競合のベストプラクティスに縛られず、業界を再定義する方法論なんです。

竹中:なるほど。再定義する際に具体的に有効な方法は?

キム:自分たちと異なる業界からヒントをもってくることですね。例えばNewsPicksがどんなコミュニティの形態をとるかは、他のメディアではなく、エンタメ業界にあたるジャニーズ事務所からヒントを得たそうです。主催するイベントの登壇者が面白くて固定ファンが多数いれば、そのファンがやってきて盛り上がる。このように、自分たち以外の業界の成功事例に目を光らせることが必要です。

「評価する人を評価する仕組み」を抜本的に変えよ!

竹中:私はダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)の理事を10年間務めています。2018年のダボス会議で議論のテーマとなったのが「第4次産業革命」。世界の秩序が変化し、グーグルやアップル、サムソンなどが、国境を越えて大きな影響力を及ぼしています。

キム:その中で日本企業がプレゼンスを高めるには、どうしたらいいのでしょうか。

竹中:大きなヒントになるのが、日本取引所グループのトップだった斉藤惇さんの言葉です。「アップルなどがもつ技術の発想の大部分は日本を代表する電機メーカーのもの。しかし、日本企業の中では技術者たちが上に提案しても、ことごとく拒否され、その結果、その技術が外に出ていってしまった」。
これを聞いて痛感したのが、ボトムアップで意見を吸い上げ、若手に活躍の機会をどんどん譲ることの重要性です。日本企業はそれがわかる人をトップに据えないといけない。もしそれを妨げるボスがいるなら、追い出す必要があります。トップの選び方を再考すべきときがきています。

私が大事だと思うのは「評価する人を評価する仕組み」。これが日本企業に浸透すれば、イノベーションが進むと思うんですよね。

キム:日本では360度評価が形骸化している企業が多いですね。これとは対照的に、マネジメント層が社員に対して非常に協力的で、組織としてうまくいっている日本企業に出合いました。その背景にあったのは、上司が部下の成長をサポートしているかといった項目が上司の評価基準に入っていたこと。こうした評価基準を設けることなら、他の日本企業でも導入できるんじゃないでしょうか。
竹中:優秀な人材に活躍してもらうのに一番大事なのは、企業が「兼職」を認めること。すぐに転職は難しくても兼職はできます。一社で働くだけで、人生100年時代に通用するスキルを磨くのは難しい。そこで私は常々、高度な専門性を備え、独立して複数の企業と契約を結ぶ「インディペンデント・コントラクター」をめざせ、といっています。

兼職を認めない企業がなぜ多いのか。それは、厚労省が過去に制定したモデル就業規則に「兼職は原則として認めない」とあるから。これをそのまま取り入れている企業が多いだけ。もはや時代にあっていない規定ですよね。本来なら守秘義務をしっかり守れば、就業時間以外に映画に行こうと兼職しようと、個人の自由でしょう。

キム:コンサルティングファームを見ていても、ロンドンと日本では全然違います。ロンドンでは、エクスターンシップ(短期就業体験プログラム)が公に認められています。会社に在籍したまま、顧客先で1年間働いたり、好きなNPOで活動したりできます。だからハードな環境でも働き続けられているんです。こういう柔軟性は優秀な人材を引きつけるうえでますます大事になるでしょうね。

働き方改革、理想と現実のギャップとは?

最後に参加者からの質問タイムへ。

参加者:現在、空前の働き方改革ブームですが、理想と現状にギャップはありますか。また、働き方改革は今後どうなっていくと考えますか。

竹中:理想と現状にはまだまだ差があります。本来は、自由な働き方を認めて、それぞれの働き方の中で不平等がないようにすることが重要です。なのに現在は、電通の過労死問題にばかり目を向けすぎて、労働時間の削減に関する議論だけが先行しています。企業のシステムを変えずに全労働者の労働時間を10%減らしても、GDPが10%減るだけ。

ただし、今の働き方改革で意義があると感じるのは、約70年間変わらなかった労働基準法を変えようとしていること。世界のホワイトカラーの間ではすでに認められている裁量労働制にけちをつけるなど、抵抗の動きもあります。ですが、そこに切り込んでいくことで、真の働き方改革が実現できるといえるでしょう。


近日、要約公開予定!
最強の生産性革命 時代遅れのルールにしばられない38の教訓
最強の生産性革命 時代遅れのルールにしばられない38の教訓
著者
ムーギー・キム
出版社
PHP研究所
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ムーギー・キム

慶應義塾大学総合政策学部卒業。INSEADにてMBA(経営学修士)を取得。

卒業後、外資系金融機関の投資銀行部門、外資系コンサルティングファーム、外資資産運用会社での投資アナリストを歴任した後、香港に移り、アジア一帯のプライベートエクイティファンド投資に従事。フランス、シンガポール、中国での留学を経て、大手バイアウトファンドに勤務。現在はシンガポールを拠点に、世界中のベンチャー企業の投資・支援を行なっている。

英語・中国語・韓国語・日本語を操り、日本で最も影響力のあるベストセラー・ビジネス作家としても知られている。日本最大級のビジネスオンラインメディア、東洋経済オンラインでの人気連載ほか、国内メディア・企業向けの講演を多数こなしている。

竹中 平蔵 (たけなか へいぞう)

1951年和歌山県生まれ。一橋大学経済学部卒業。博士(経済学)。

ハーバード大学客員准教授、慶應義塾大学総合政策学部教授などを経て、2001年小泉内閣で経済財政政策担当大臣を皮切りに、金融担当大臣、郵政民営化担当大臣兼務、総務大臣を歴任。2006年よりアカデミーヒルズ理事長、現在東洋大学教授、慶應義塾大学名誉教授。ほか㈱パソナグループ取締役会長、オリックス㈱社外取締役、SBIホールディングス㈱社外取締役などを兼務。

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文責:松尾 美里 (2018/03/22)
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