【本からのぞくグローバル・トレンド】
カズオ・イシグロ作品への入り口
『知の最先端』/『カズオ・イシグロ入門』/”My Twentieth Century Evening and Other Small Breakthroughs”/『日の名残り』

ノーベル文学賞受賞によって、ひときわ注目を集めているカズオ・イシグロの作品は、これまでにも世界中でたくさんの読者を獲得してきた。日本でも、彼の作品は文学ファンを中心に高く評価されていたが、このたびの受賞を機に、それほどフィクションを読まない方も彼への関心をかきたてられたのではないだろうか。

今回のコラムでは、とくに、カズオ・イシグロは気になるけども文学作品は読み慣れなくて……という方に向けて、作品へ近づくいくつかの道筋を提案してみたい。

ふだんは海外書籍に限って本をご紹介しているが、今回はテーマの性質上、例外的に、少し幅広く書籍をとりあげてみたい。

作家その人を知る

知の最先端 (PHP新書)
知の最先端 (PHP新書)
著者
カズオ・イシグロ
出版社
PHP研究所
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本書は、現代を代表する七人の知の巨星たちへのインタビュー集だ。フランシス・フクヤマ、クレイトン・クリステンセンら錚々たる面々が並ぶなか、最後に登場するのがカズオ・イシグロである。

自身の作品の世界観、世界に受け入れられる作品の条件、好んで読む本や生い立ちなど、彼がどんなことを考えている人なのか、よくわかる内容となっている。まずカズオ・イシグロその人に興味を持った方は、本書を読んでみてはいかがだろうか。

作家と作品を概観する

カズオ・イシグロ入門
カズオ・イシグロ入門
著者
日吉信貴
出版社
立東舎

本書は「入門」と謳われているとおり、予備知識ゼロの人が、作家と作品の全体像を大まかにとらえるのにうってつけの一冊だ。ざっと目次を追うだけでも一定の情報を得ることができるし、各作品のあらすじを見て、読みたい作品を選ぶのに役立ててもいい。

読もうと思う作品を決めていざ読み進めるときには、「入門」で得た知識を意識しすぎず、自分の受け取り方を大切に、読書を楽しむとよいだろう。そして作品を読んだ後にまた本書に戻り、自分の読み方を本書の著者の読み方と比べてみるのもまた一興である。

ニュースから掘り下げてみる

My Twentieth Century Evening and Other Small Breakthroughs: The Nobel Lecture
My Twentieth Century Evening and Other Small Breakthroughs: The Nobel Lecture
著者
Kazuo Ishiguro
出版社
Knopf Canada
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昨年12月7日にスウェーデンのストックホルムにて行われたノーベル賞授賞式については、日本でも時を置かず報道された。カズオ・イシグロに関して、報道では「ノーベルショウ」「ヘイワ」と日本語で語った、晩餐会でのスピーチによりスポットが当たっていたが、本書が収録しているのは彼のノーベル賞受賞記念講演(Nobel Lecture)のほうである。全文はノーベル財団の公式ウェブサイトでも閲覧することができる。

主な内容は、代表作が生まれた背景や転機となったできごと、文学そのものがこれからどうあるべきか、ということなどである。たとえば、日本を舞台にした初期の作品は、彼が5歳でイギリスに渡って以来、想像の中でかたちづくってきた「日本」を保存したいと考えたことが書く動機になっていたという。また、音楽からたくさんのインスピレーションを得ているというくだりも印象深い。歌詞ではなく、歌声に込められた複雑な感情が、あるシーンを描くときに表現すべきものを示してくれることがあるそうだ。

難解な表現も大げさな表現も使わず、しかし、深いところで世界をとらえているような彼の言葉づかいは、作品と通じ合う。

ちなみに、ノーベル賞受賞記念講演の英語原文と日本語対訳を収録した書籍が、来る2月に早川書房から刊行されるとのこと。

何か1冊読んでみる

日の名残り (ハヤカワepi文庫)
日の名残り (ハヤカワepi文庫)
著者
カズオ イシグロ
出版社
早川書房
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どんな入口からカズオ・イシグロに関心をもつにしても、作品そのものの味わいを知らないままで終わってしまってはあまりにもったいない。なにせ当世一流の作品である。ぜひ、ご自分で気になるものから手にとってみてはいかがだろう。

ただ、物語をあまり読まないという方に、最初の1冊としてあえておすすめするならば、『日の名残り』を推したい。こちらは、老執事スティーブンスの回想を通して、彼の生きてきた時間と、在りし日の伝統的英国を描くものである。物語は、「老執事が、かつて屋敷でともに働いた女中頭ミス・ケントンを訪ねる旅に出る」という明確な方向性をもって始まるため、他の作品より筋書きが比較的わかりやすいといえるだろう。また、4週間という短い期間で執筆された(ガーディアン紙のインタビューによる)ことも作品に勢いを与え、それが読みやすさにつながっているようにも感じられる。

本作品は、英国最高の文学賞であるブッカー賞を受賞しており、アンソニー・ホプキンス主演で映画化もされている。Amazon創業者であるジェフ・ベゾスの愛読書の一冊でもある(ブラッド・ストーン著『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』による。邦訳版は日経BP社より刊行)。カズオ・イシグロの代表作として、日本で舞台やテレビドラマにもなった『わたしを離さないで』と双璧をなす作品である。

ぜひ、「理解する」でなく、「感じる」というモードへ切り替えて、作品にゆったりと向き合ってみてほしい。感性をはたらかせて作品の描き出すものを受け取ることで、あなたの心はいっそう豊かになり、輝きを増すことだろう。

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文責:熊倉沙希子 (2018/01/11)
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