医療業界に風穴を開けるメドレーの挑戦に迫る
オンライン診療アプリCLINICSは日本の医療をどう変えるのか?

「医療ヘルスケア分野の課題を解決する」をミッションに掲げるメドレー。オンライン診療アプリCLINICS、医師がつくるオンライン医療事典MEDLEYなど、患者やそのご家族、医療従事者が共に納得できる医療の実現に向けたサービスを立ち上げ、その普及に力を注いでいます。日経デジタルヘルス「ベンチャーが選ぶベンチャーランキング」でも1位に選出されるなど、注目が集まっています。

メドレー代表取締役医師の豊田剛一郎さんは、医師、マッキンゼーを経て、2015年2月に共同代表としてメドレーに参画するという、異色のキャリアの持ち主です。

初の著書となる『脳外科医からベンチャー経営者へ ぼくらの未来をつくる仕事』には、医療が抱える問題の深刻さ、豊田さんが医療を変えたいと思うようになった背景、そして医療への想いが、等身大の言葉で綴られています。メドレーは、医療の課題にどのように立ち向かっているのでしょうか。医療・ヘルスケア分野の未来とともにお聞きしました。

重大な意思決定に迫られたとき、納得感ある選択ができるのか?

『脳外科医からベンチャー経営者へ ぼくらの未来をつくる仕事』を執筆しようと思った理由は何ですか。

ぼくらの未来をつくる仕事
ぼくらの未来をつくる仕事
著者
豊田剛一郎
出版社
かんき出版

医療のことって、自分や家族が病気にかかるといった経験がなければ、普段は意識しないですよね。例えば、大事な家族が突然脳梗塞で倒れ、延命手術を受けるかどうかという、重大な意思決定を迫られる可能性は誰にでもあります。

脳梗塞とはどんな病気なのか。手術を受けた場合と受けなかった場合それぞれに、どんなメリットとデメリットがあるのか。こうした知識があった上で、以前から家族と万一のときに延命治療を希望するかどうかを話し合っているかどうかが問われます。

もちろん選ぶ内容は、その人や家族の価値観次第。正解があるわけではありません。ですが、じっくり考えるプロセスを経て意思決定するのと、医者任せという受け身な態度では、例え同じ結果だったとしても、その後の納得感は大きく違います。こうした思いから、医師がつくるオンライン医療事典「MEDLEY」を立ち上げ、正しくわかりやすい医療情報を、無償で提供しています。

医療をより身近なこととして捉えてほしい。MEDLEYだけでなく、様々なサービスを通じてこうした想いを発信していますが、より広く多くの人に届けられる手段として出版という形を選びました。私のこれまでの経験、そして医療の問題に対する考えなどを、この一冊に結晶化させました。

本書の編集者は、豊田さんが医師時代の患者だった。「メドレーの挑戦について書いてほしい」という編集者からの熱いアプローチが執筆の直接の後押しになったという。

待ち時間ゼロ、オンライン診療アプリ誕生の舞台裏

オンライン診療のCLINICSを生み出した背景には、どんな課題意識がありましたか。

これまでオンライン診療(遠隔診療)は、離島やへき地などの限られたシーンで使用されるものとされていました。しかし、2015年、厚生労働省が遠隔診療の利用はこれらに限定されるわけではない、という通達を出したのです。利用シーンが広がれば、患者の通院時間や待ち時間を大幅に減らせるのではないか。そんな期待のもと、メドレー内で議論を重ね、医療機関がオンライン診療を実施することを支援するアプリCLINICSの開発に至りました。

例えば、ビジネスパーソンにとって、平日に会社を抜け出して通院するのも、病院で長時間待つのも、かなりの負担です。診療は対面が原則ではありますが、2回目以降で症状が安定していると医師が判断すれば、スマートフォンやPCのビデオチャットで、自宅やオフィスなどからオンラインで診療を受けることができます。オンライン診療が円滑に実施できるようなサービスを提供することで、通院を断念する患者の数をグッと減らせるのではないかと思っています。
また、子育て中の親御さんも、お子さんの、かかりつけ医への診療がスマホなどでできれば、時間的、精神的にラクになるはずです。

それは治療を継続するハードルはかなり下がりますね。

CLINICSを開始して、当初は予期していなかった新たな活用の方法が生まれています。例えば、医師不足の地域で在宅医療を支援するという事例。きっかけは、福島県南相馬市にある市立小高病院の藤井医師からの問い合わせでした。この地域は、震災後に避難指示が出ており、2016年の避難解除で住民の帰還が始まりました。その多くが高齢者であったため、病院に自力で来られない方も少なくありません。小高病院では急増する在宅医療の患者に対応する必要があったのです。

そこで行き着いたのが、看護師にCLINICSの入ったタブレットをもって、対象となる患者の家を回ってもらうというスタイル。これなら、患者がスマホやタブレットをもっていなくても問題ありません。小高病院のモデルは、訪問診療を行う医師が不足する現在、被災地や医療過疎地に限らず、在宅医療全体にプラスになると考えています。

女性医師の働く機会創出、精神科受診の促進――。CLINICSの新たな道筋

在宅医療の支援のほか、CLINICSは今後どのような分野で応用できると考えていますか。

これは未来の可能性の話ですが、女性医師のキャリアパスを広げるのに役立つのではないかと考えています。医療の現場でも働き方改革について議論されていますが、育児休暇明けで子どもが小さい時期など、病院以外でなら勤務できるという女性医師は少なくない。現在、医学部生の4割が女性ともいわれていますが、オンライン診療という選択肢が、女性の働く機会を増やしていくかもしれません。

もう1つは、精神科での活用です。精神科の受診では、周囲の目が気になって、病院に足を運ぶことや待合室で待つことが苦痛という患者も少なくありません。また、引きこもっている期間が長く、外出自体に障壁を感じるケースもある。オンライン診療ならこうした精神的負担を軽減できます。

CLINICSのユーザーである精神科の先生からは、「オンライン診療のおかげで、患者さんが服薬を継続でき、今では電車に乗れるようになった」という声も。

CLINICS急成長の秘訣は「徹底した医師目線」

CLINICSはサービス開始から2年弱で800以上の病院に導入され、急速に普及しています。圧倒的なスピードで実現できた理由は何ですか。

タイミングがよかったというのはあると思います。2015年の厚労省の通達がなければ、こうしたアイデアがあってもサービス化には結びつかなかったですから。

そのうえで、スピード感をもって進められたのは、「なぜこの事業をやるのか」という意義を、医療に取り組む関係者に、熱意を持って伝え続けたから。インターネットを使った診療は、初の試みです。その価値を多くの方に体感してもらうには、厚労省や医師会、そしてCLINICSを利用してくださる医療機関など、多様なステークホルダーの理解や協力が欠かせません。

「治療が必要な患者が治療を続けやすくなる」「医師不足といった医療の課題解決につながる」。こうした点を丁寧に伝えるなかで、協力者が増えていきました。

今後の課題はありますか。

次のステップは、CLINICSを医療の現場にいかに溶け込ませていくか。2018年度の診療報酬改定では、情報通信機器を用いた遠隔診療に対する報酬が新設されることが決まりました。これは遠隔診療の大きな後押しになるでしょう。

ただし、具体的な活用のイメージが湧かないという医師もまだまだいます。また、「CLINICSがあれば夜中に、突然腹痛に襲われても、家で診てもらえて安心」と誤解する方も少なくありません。
CLINICSは救急医療のためのものではありません。あくまで症状が安定し、医師が「遠隔でも大丈夫」と判断した場合にのみ利用できるツールです。今後CLINICSの普及とともに、オンライン診療でできること、できないことを、具体的な事例と共にきちんと伝えていく必要性があると考えています。

メドレーには、医師や多様な専門性をもったメンバーが参画されていますね。

メドレーには現在8名の医師資格者がいます。専門家としての医師の目線をしっかりと持ちながら、ユーザーのニーズを満たすサービス開発をすすめていけることは、弊社にとって大きなアドバンテージです。

とりわけ医療は、命に関わる領域だけに失敗が許されず、だからこそ規制が多い業界です。他の業界に比べると一度市場に出してトライアンドエラーで改善していくことがやりづらい分、とても慎重さが求められます。一方で、広く使われるサービスをつくるにはスピードも求められるため、他の業界のアプリに比べると、かなりハードな開発だといえます。ですがありがたいことに、そのハードルを乗り越えることに使命感を見出している仲間に恵まれているので、着実に前進できています。

医療×ITの進展で、医療の未来はどう変わるのか?

メディテック、ヘルステックの発展によって、医療の未来はどうなると予測していますか。

主に3つの方向性があると思っています。1つ目はAIの進展などによる自動化の流れです。診療にとどまらず、画像診断や治療など、より専門性が高い領域が自動化され、医師の判断の助けとなってくれるでしょう。

2つ目は医療自体の仕組みの変化。現在は、A病院でとったMRIの結果をB病院に共有するには、CD-ROMを使うしかない、といった状況が普通に起きています。まちがいなく非効率的ですよね。

ですが、IT化やネットワーク化が進めば、病院間で電子カルテなどの医療情報の共有が進み、より効率的で、洗練された医療体制ができるでしょう。例えば、過去の検査結果やウェアラブルデバイスで計測したバイラルデータなども、アプリ上で一元管理できるとする。すると、病院間の情報共有が改善し、患者は不要な検査を受けなくて済むなど、より効果的な医療が行えます。
また、血圧や心拍数などの生体データをアプリで「見える化」すれば、生活習慣の改善を促しやすくなるはずです。

3つ目は、予防医療ですね。未病や予防の領域に、医療・ヘルスケアのサービスがもっと入り込むべきです。例えば、RIZAP(ライザップ)は近年のダイエットブームの火付け役ですが、これは肥満の減少につながる非常に良い動きです。

これに対し、医療・ヘルスケアはそこまで身近な存在になっていません。健康な人に健康に関するサービスを売るのは難しいからです。だからこそ、健康維持に誰もが意識を向けられるようなサービスをつくり、「ダイエット・美容」と、「医療・ヘルスケア」の間にある分断を埋めたいと思っています。

オンライン医療事典MEDLEYは情報非対称性の解消に、そしてオンライン診療アプリCLINICSは医療に関する時間的コストの抑制に重要な役割を果たしています。それ以外にメドレーのサービスはどんな効果を生み出せると考えていますか。

MEDLEYは、人々の医療リテラシーを高めると同時に、「自分で病気について調べられる」という主体性を育てるためのサービスでもあります。そしてCLINICSが一般的に使われるようになれば、様々な医療機関での診療履歴をアプリで一括管理できますから、「自分で健康を管理する」という意識が芽生えていく。
ある医学論文によると、がんの患者が自分の症状などを記録し続けた場合と、そうでない場合に、その後の生存率に大きな差が生まれるそうです。患者が自分の状況を理解し、治療に積極的に関わろうとすることが、いかに大事かがわかります。

また、CLINICSの先の話にはなりますが、患者自身が自分の検査結果などのメディカルレコードを管理するようになると、そのデータに合わせた予防サービスが推奨される、なんてこともできるかもしれない。すると、競争原理が働いて今まで以上に革新的なサービスが誕生するはずです。
今後もメドレーは、インターネットを活用して患者の「個」をエンパワメントし、誰もが納得できる医療の未来をつくっていきたいと思います。

メドレーの今後の展開がますます楽しみです。何より、豊田さんの新著を多くの方に読んでいただきたいという思いでいっぱいです。貴重なお話をありがとうございました。

★豊田さんの新著はこちら★

ぼくらの未来をつくる仕事
ぼくらの未来をつくる仕事
著者
豊田剛一郎
出版社
かんき出版

豊田 剛一郎 (とよだ ごういちろう)

株式会社メドレー代表取締役医師。1984年東京生まれ。東京大学医学部卒業後、聖隷浜松病院で初期臨床研修を終え、NTT東日本関東病院脳神経外科に勤務。2012年に渡米しChildrenʼ s Hospital of Michiganに留学。米国での脳研究成果は国際的学術雑誌の表紙を飾る。

脳神経外科医として充実した日々を送る一方、日米での医師経験を通じて、日本の医療の将来に対する危機感を強く抱き、医療を変革するために臨床現場を離れることを決意。2013年に世界的な戦略系コンサルティングファームであるマッキンゼー・アンド・カンパニーへ。

マッキンゼーでは主にヘルスケア業界の戦略コンサルティングに従事。同時期に、Facebook上で小学校時代の同級生で株式会社メドレーの代表瀧口浩平と再会し、“未来ある日本の医療をつくる”ことで意気投合。

2015年2月より株式会社メドレーに共同代表として参画し、代表取締役医師に就任。「医療ヘルスケア分野の課題を解決する」をミッションに掲げるメドレーにて、遠隔診療を可能にするオンライン診療アプリ「CLINICS」、医師たちがつくるオンライン医療事典「MEDLEY」など、納得できる医療の実現に向けたサービスを立ち上げる。

現在、スタートアップで最も注目される経営者の一人。本書は初めての著書である。趣味はサッカー。

メドレー http://www.medley.jp/

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文責:松尾 美里 (2018/02/08)
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