「本物の経営者」なら会社を売りなさい!
中小・中堅企業M&AのNO.1コンサルタントが語る、これからの時代のM&Aとは

「本物の経営者」なら会社を売りなさい!

今回登場いただくのは、日本M&Aセンターで業界再編支援室長を務める渡部恒郎さんです。2008年の入社以来、過去70件を超えるM&Aを成約に導き、中小・中堅企業M&AのNO.1コンサルタントとして業界を牽引してこられました。テレビや新聞・雑誌など様々なマスメディアにも数多く登場する渡部さんに、これからの業界再編について占っていただきました!

「業界再編時代」のM&A戦略
「業界再編時代」のM&A戦略
渡部恒郎
幻冬舎
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「業界再編時代」のM&A戦略
「業界再編時代」のM&A戦略
著者
渡部恒郎
出版社
幻冬舎
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買い手ではなく売り手主導へ、M&Aの最新トレンド

── 『「業界再編時代」のM&A戦略』を出版しようと思われた理由を教えてください。

渡部恒郎(以下、渡部):今回本を書いたのは、いま、M&Aのトレンドが変わりつつあることを多くの人に知っていただきたかったからです。そこには2つの潮流があります。 一つは、最近は売り手側の企業が戦略的にM&Aを仕掛けるようになってきている点です。 買い手の会社が「どの会社を買収すればよいか」ということを考えるケースもありますが、そうすると結局目当ての会社を買収できなかったりして、戦略オプションとしては弱いと言わざるを得ません。 最近は売り手の方から自社を買ってくれる会社を探すようになりました。そうすると、売り手の会社は「どの会社と一緒になれば、わが社はより発展できるのだろう」ということについて、時間をかけて様々な選択肢を検討することができます。 事業内容が魅力的であれば、よほど条件面で無茶を言わない限り、売却できる可能性が高い。 つまり、より戦略的なM&Aができるようになったということです。 もう一つは、これまでは50・60歳以上の経営者が事業承継を目的として会社を売却するM&Aが中心だったのですが、最近では比較的若い、30・40代の人も売却を検討するようになってきました。 昔は経営者が進んで売却するということにネガティブなイメージがあって、「事業承継なら仕方がない」と言われる年齢までは会社を経営しなくてはならなかったのですが、そういうイメージも徐々に薄れつつあります。

── 以前は「売る」という言葉に拒否反応を示す方も多かったんでしょうね。それにしても、30・40代の方が売却を検討するようになったのはどうしてなのでしょうか?

渡部:これまでは「売却したらお金は手に入るけど、その代わりに仕事からは引退しないといけない」という固定観念があったのですが、そういう認識もなくなってきたからだと考えています。 私が担当した案件では、会社を売却した後で、買収した側の会社に経営メンバーとして参画した方も多いですし、なかにはM&Aの担当役員として活躍している人もいます。事業規模が拡大して、さらに面白い仕事ができるようになったという声がほとんどですね。 「仕事一筋で生きてきたのに、会社を売却してしまうとやることがなくなってしまう」という悩みを持つオーナー経営者も多いのですが、それは自分よがりな考えであって、会社のことを考えていない。従業員の幸せを考える「本物の経営者」であれば、会社を売ることを真剣に検討すべきです。何より、買収された側の会社の従業員が幸せになることが多いんですよ。

── それは意外ですね。買収された側の従業員が幸せになれるというのは、どういうメカニズムなんでしょうか?

渡部:まず、買収された側の従業員の離職率が下がります。オーナーからすれば「自分が辞めたら、自分を慕ってくれていた人まで辞めてしまうのでは」と思ってしまいがちですが、ふたを開けてみたら意外にそうでもない。むしろ事業規模が大きくなることで福利厚生が充実しますし、細かい話ですが、小売業ではシフトが組みやすくなるので業務環境も良くなったりします。働きやすい環境であれば、辞めたいという社員はほとんどいなくなります。 そもそも、日本M&Aセンターでは「売った会社の雇用は必ず守る」という条件を契約書に織り込んでいるので、買収したらすぐに従業員のクビを切るような会社に売ってしまう心配もありません。 さらに、会社が大きくなれば仕入などの取引条件が改善し、経営状況が向上するため、結果として従業員の平均給与も自然に上がるケースが多いです。そうなれば買収された側の従業員にとってはこれまでよりも格段に恵まれた環境のなかで仕事ができることになるわけです。 売り手の会社は、業績好調のときは当然売りたくないし、不振に陥ってしまうと「どこかが買収してくれないかな」と考えますよね。不振に陥った会社は安く買収できるかもしれないですが、事業としては魅力がなくなっていることが多い。売り時って結構難しいのではないかと思いますが、いかがですか? 渡部:基本的には、3期連続増収とか、まだこれから成長・拡大できるというときに売却することを提案していますね。そういう時期の方が売り手としては良い条件を引き出せますし、いろんな選択肢を検討することができますから。 いままでありがちだった「経営者が60歳で売却する」っていうのは、経営者自身のタイミングです。自分の体力的にそろそろしんどいなという。そうじゃなくて、会社のタイミングで売る方が後々会社の発展につながる、ということを啓蒙しています。

── 『「業界再編時代」のM&A戦略』がその啓蒙につながることを期待しています。この本で想定されている読者層はどんな方なのでしょうか?

渡部:経営者の方にはもちろん、全ビジネスパーソンにぜひ読んでいただきたいですね。会社のオーナーがどんな感情を持っているのかについても書いています。ビジネスパーソンとして成長するためにはオーナー経営者の意図を汲む勉強は絶対にやっておいた方が良い。この本を読むことで、経営者としての考え方を学ぶことにもつながるはずです。 それに、これだけM&Aの件数が増えているのに、まだまだM&Aのことを知らない方が多い。今回の本が少しでもそういった方に知ってもらうきっかけになればうれしいですね。

── 最後に、オススメの本があればぜひ教えてください。

渡部:私自身、たくさんの経営者から本を薦められるので、かなりの読書家だと自負しています。経営者のことを知り、経営者としての目線を養う本としては次の5冊はとても良い本なので、何度も読み返しています。
ウィニング 勝利の経営
ウィニング 勝利の経営
ジャック・ウェルチ, スージー・ウェルチ, 斎藤 聖美 著
日本経済新聞社
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ウィニング 勝利の経営
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著者
ジャック・ウェルチスージー・ウェルチ斎藤 聖美 著
出版社
日本経済新聞社
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グレートカンパニー――優れた経営者が数字よりも大切にしている5つの条件
グレートカンパニー――優れた経営者が数字よりも大切にしている5つの条件
リッチ・カールガード 著 野津 智子 翻訳
ダイヤモンド社
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著者
リッチ・カールガード 著 野津 智子 翻訳
出版社
ダイヤモンド社
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イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)
イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)
クレイトン・クリステンセン 著 玉田 俊平太 監修 伊豆原 弓 翻訳
翔泳社
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イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)
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著者
クレイトン・クリステンセン 著 玉田 俊平太 監修 伊豆原 弓 翻訳
出版社
翔泳社
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運を支配する (幻冬舎新書)
運を支配する (幻冬舎新書)
桜井 章一, 藤田 晋 著
幻冬舎
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運を支配する (幻冬舎新書)
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著者
桜井 章一藤田 晋 著
出版社
幻冬舎
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志高く 孫正義正伝
志高く 孫正義正伝
井上 篤夫 著
実業之日本社
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志高く 孫正義正伝
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著者
井上 篤夫 著
出版社
実業之日本社
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読書は内容ももちろん大事ですが、本を読んで何かに学ぼう、知識を得ようという謙虚な姿勢が大事だと思うんですよ。そういう姿勢こそが好感をもたれるビジネスパーソンになるために必要ではないでしょうか。

── M&Aの最先端で活躍されているコンサルタントならではのご意見、非常に参考になりました。ありがとうございました。

「業界再編時代」のM&A戦略
「業界再編時代」のM&A戦略
渡部恒郎
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著者
渡部恒郎
出版社
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文責:苅田明史(2015/11/15)