出世を目指して意欲的に働くことはなく、最低限やるべき業務をやるだけの状態を、「静かな退職」と呼ぶ。これはアメリカのキャリアコーチが発信した「Quiet Quitting」の和訳である。会社をやめる気はないが仕事の意義を見出していないので、「退職」とほぼ同義だという。
かつて「エコノミックアニマル」と揶揄された日本のビジネス界にも、この新たな労働観が浸透しつつある。Job総研による2023年の調査では、全体の72.2%が「仕事よりもプライベートを重視する」という結果が出た。
言われた仕事はやるが、会社に過剰な奉仕はしない。不合理な要望は受け入れず残業は最小限にとどめる――。そんな社員に対し、旧来の働き方に慣れたミドル層は不満を抱いている。
本書はこうした軋轢を解消するための、「静かな退職の取り扱いガイドブック」だ。静かな退職を望む個人と、その周囲の上司や企業双方に、静かな退職をソフトランディングさせる方法を解説する。
まずは欧州の働き方に目を向ける。欧州の標準労働は、日本ならクビになるレベルといえる。たとえば、スペインからアンドラ公国(フランスとスペインの国境にある)に行くバスの運転手が定時になると乗客を降ろした事例がある。日本のドライバーなら目的地まで行くだろう。
欧州では定時退社を優先するため、労働生産性が高くなる。さらに、乗客たちがタクシーなどを利用するため、新たな消費=生産が生まれ、経済活動の活性化にもつながる。このように、手を抜けば抜くほど「労働生産性」は上がるのだ。
日本では「忙しい毎日」を送る人が多く、業績に直接関係のない業務に時間を割いている。
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