厚生労働省の「労働安全衛生調査(実態調査)」によれば、メンタル不調が原因で1ヶ月以上の休職、または退職をする人は全事業所の10%以上にのぼるという。メンタル疾患予備軍も含めれば、相当な数の人がメンタル不調を抱えていると考えられる。
年収480万円の社員が1名退職した場合、労働の付加価値や売上減などを計算すると、単純計算で1104万円の損失となる。これに加え、入社時の面接コストや育成コストなどがかかってくるため、損失はさらに大きくなる。企業にとって、社員を退職させないことは非常に重要だ。
企業では産業医との契約やストレスチェックなどさまざまな対策を講じているが、状況は芳しくない。メンタル疾患者は年々増え続けており、突然辞めてしまう社員もあとを絶たない。企業はメンタル不調との付き合い方を真剣に変えるべき時期に差し掛かっている。
メンタル不調の難しい点は、自分では不調に気付けないことである。ほとんどのメンタル不調者は、周りから声をかけられて初めて自分が「病気」だと気付く。個人の力でメンタル疾患に陥らないようにするのは、不可能だといっていい。
また、多くの人は「困難を乗り越えること」を「善」とする価値観を持っている。つらくても無理をして取り組んでしまうことが多いし、周囲もそんな人を応援してしまう傾向がある。そのような雰囲気も、知らず知らずのうちに人を「健康」から「病気」へと追いやってしまう要因である。
「健康」と「病気」の境界を知る手段として、医療機関の受診がある。しかし、医療機関の役割は「病気である判断をすること」と「病気の治療をすること」だ。そのため、状態が悪くなり、病名がつくまでは基本的に何もしてくれない。
また、メンタル不調は風邪のように自然に治ったりはしない。治ったとしても、一生その病気と付き合っていくことになる。メンタル不調で休職し、治療を終えた社員の約5割が再発し、再び休職に至るという調査結果もある。しかも、2回目は1回目よりも休職期間が1.5倍長くなるという。
3,400冊以上の要約が楽しめる