キーエンスと他社の最大の違いは「性弱説」で動いているか否かだ。
多くの企業は性善説で動いている。性善説とは、人はみな本来善人であり、「正しく聞けば、正しいことを話してくれる」「正しく指示すれば何でもできる」「常識的なことはみんな分かっている」というような考え方だ。具体的には「ある程度のマニュアルを作れば、それを守って動いてくれる」「仕事をきちんと頼めば、ちゃんとやってくれる」「スケジュールを明示したら、きちんと守ってくれる」と考える。
一方の性弱説では、人は本来弱い生き物であり、「難しいことや新しいことを積極的にはやりたがらない」「目先の簡単な方法を選んでしまいがち」と捉える。具体的な例を挙げると「ちゃんとしたマニュアルを作っても、その通り動いてくれない人がいる」「仕事をきちんと頼んでも、抜けや漏れが出てしまう」「スケジュールを明示しても、なかなかその通りに進まない」といった捉え方である。
「人は特別なこと以外は何でもできる」という前提に立つか、それとも「人は思っているよりもできないことが多い」という前提に立つか。これが「性善説」と「性弱説」の違いだ。
キーエンスで大きな成果が出るのは、仕事に対するアプローチが性弱説的だからだ。難しい仕事を任せるとき、「できるだろう」と楽観視するのではなく、「できないかもしれない」という性弱説視点で「任せた仕事をできる確率を高めるにはどうすればいいか」を考える。この差が、結果に大きな違いを生んでいるのだ。
キーエンスが高収益を生み出す理由の一つに、「世界初、業界初の新商品が70%に達する」がある。これが実現するのは、性弱説に基づいて商品開発をしているからだ。
キーエンスには、顧客のニーズを営業担当者が集める「ニーズカード」という仕組みがあり、全社で毎月、数千枚のニーズカードが集まる。大量のニーズカードが集まるのは、「ニーズが集まらないかもしれない」という性弱説に立ち、ニーズカードを提出しないと人事評価でマイナス評価がついたり、良いニーズには「ニーズカード賞」として賞金が出たりする仕組みを用意しているからだ。
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