ほとんどの人には、苦手だと感じる相手がいるはずだ。しかし、その人は誰にとっても「苦手な人」というわけではない。苦手に感じる原因は、「『相手』にあるのではなく、自身の『評価』でしかない」のだ。自分が好きになれない音楽を好きになる人がいる。これは音楽が悪いわけではない。人も同じだ。
「あなたの前に苦手な人がいても、見方を変えると、違った評価になる可能性がある」ということである。
本書では、この見方を変える方法について、具体的に紹介していく。
相手への評価を適切に変えていくには、自分の評価のクセを知る必要がある。認知行動療法の創始者であるアメリカの医学博士、アーロン・T・ベック氏は、この評価のクセを「認知のゆがみ」と呼ぶ。
苦手な人や困った人が認知のゆがみから生まれているなら、そのゆがみを矯正すればよい。認知のゆがみは、自動思考とスキーマによって生じる。自動思考は「瞬時に心に浮かぶ思考やイメージ」で、瞬間的な感情などによる判断が誤解につながってしまう。スキーマは「人生のさまざまな体験から構築された、自動思考のもとになる価値観や評価の基準」だ。「約束を守らない人は信用してはいけない」という家庭と、「約束は守れない場合もある」という家庭では、そこで育つ子どものスキーマが大きく違ってくる。
こうしたことはふつうは簡単に変えられないが、ストレスコーピングによって認知のゆがみをフラットな状態にできるのだ。
本書では、代表的な認知のゆがみとして、「べき思考」「完璧思考」「読み過ぎ思考」「マイナス思考」の4つを挙げている。ここではそのうち2つを取り上げよう。
まずは、怒りっぽくなりがちな「べき思考」だ。これは、「『〜すべき』『〜であるべき』と考える傾向が強いタイプ」を指す。自他の区別なく自分の尺度での評価を押しつけてしまい、軋轢を生みやすい。
「優先席は空けておくべき」「エスカレーターではきちんと並ぶべき」といった正義感からくる考えも、悪気なく攻撃的になりがちだ。「時間は厳守すべき」というスキーマがある人は、待ち合わせに遅れないよう他の予定を調整し、早歩きでその場所に向かう。言い訳しながらいつも10分程度遅れてくる人がいたら、イライラして、そういう人とは縁を切ろうとまで考えてしまうだろう。
そこで、「時間厳守のスキーマがあるので、自分は特殊」であると認知のゆがみを俯瞰できれば、理性のブレーキをかけて、「縁を切るなんて、さすがに行きすぎだ」と思い直すことができるはずだ。
もう1つの認知のゆがみは、出来事の悪い面ばかりを見てしまう「マイナス思考」である。「悪いのは自分のせいだ」「自分の力不足だ」と自分自身を責めがちで、ストレスを溜めやすい。
3,400冊以上の要約が楽しめる