本書の要点

  • 現代的な食事が、腸内マイクロバイオータの多様性を危機にさらしている。

  • 自然分娩か帝王切開か、母乳育児かそうでないかによっても、新生児のもつマイクロバイオータは異なってくる。

  • 抗生物質は善玉菌も殺してしまい、マイクロバイオータの多様性を失わせてしまう。

  • マイクロバイオータが衰弱すると、体力も衰えていく。

  • マイクロバイオータを衰弱させないためには、マイクロバイオータが好む食べ物を多く摂取し、健康な体を保つ必要がある。

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マイクロバイオータとは

私たちと微生物の親密な関係

TLFurrer/iStock/Thinkstock

地球上には多くの微生物が存在しており、それは太古からまったく変わっていない。微生物とは、細菌や古細菌といった微小な生物の総称である。地球上の細菌をすべて足しあわせると、動植物の種の数をすべて足し合わせた生物量よりも多いといわれており、ある試算によれば、地球上にいる細菌の総数は5ノニリオン(5のあとにゼロが30個つく)個にもなるという。微生物は新しい環境にただちに適応する能力を持っており、地球上のあらゆる生物の体に棲みついている。当然、人間も例外ではない。私たちの皮膚を含む、あらゆる体腔にも微生物は存在する。なかでも、多くの微生物が集中して棲みついているのが消化器系である。微生物は食べ物と住処をもとめて人類の体内に侵入した。そして、人類と微生物がともに進化していくうちに、微生物は私たちの体にとってなくてはならないものになったのだ。

アンバランスな現代人のマイクロバイオータ

古代人が主に食べていたのは、酸味があって繊維質の多い野生植物と、痩せた野生の鳥獣類や魚類であった。しかし、農耕の誕生により人類の食生活に大きな変化が生じた。これにより、果物や野菜、乳製品などの畜産物、米や小麦のような栽培穀物が主な食糧となった。さらに、ここ400年の間に産業革命が起こり、人々の食習慣は急速に変化した。そして、加工食品や過度に甘い高カロリーの食品が好まれるようになった。その結果、食物繊維があまり含まれず、消費期限を延ばすために殺菌された食事が私たちのスタンダードとなってしまった。腸内のマイクロバイオータは、人間の食生活の変化にすばやく順応する。つまり、頻繁に口にする食物と相性のよい菌種は増加するが、そうではない菌種は最悪の場合、絶滅してしまうことになる。近年、加工食品や高カロリーの食べ物の摂取が増加したことで、かつて狩猟採集時代の食生活に対応していた菌種は絶滅してしまったとみられる。

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マイクロバイオータの形成

細菌は受け継がれる

新生児のもつマイクロバイオータは、出産方法によって異なってくる。自然分娩で生まれた新生児がまず出会うのは、母親の膣と肛門にいる菌だ。母親の膣には乳酸菌の一種であるラクトバチルス属の細菌(乳酸菌の一種)が大量に含まれている。また、自然分娩で生まれた新生児は、ビフィドバクテリウム属の細菌(いわゆるビフィズス菌)も多いことが確認されている。一方、帝王切開で出産した新生児の場合、自然分娩で生まれた新生児が獲得できる菌をほとんど継承できない。くわえて、プロテオバクテリア門(きわめて多くの病原性細菌がこの門に属する)の細菌が多いこともわかっている。

母乳が乳児に与えるもの

Rohappy/iStock/Thinkstock

一般的に、赤ちゃんが最初に口にするものは母乳である。母乳には3つの大きな利点がある。まず、母乳は、脂肪・たんぱく質・炭水化物など、健康によい化合物を豊富に含み、

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要約公開日 2017.04.29
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