人間には、相手から何かを与えられると「お返しをしなければいけない」という感情を抱く性質がある。例えばデパートの食品売り場の試食がそうだ。この性質を心理学では「返報性の法則」という。
返報性の法則をビジネスで応用するとどうか。例えば他部署の協力をあおぎたい場合は、次のように言うとよい。「ほら、以前クレームが来たあの案件、うちの部署でもフォローが大変だったんだから。今回の件、そちらからも人員を割いてよ」。
本当に貸しがあるなら、その恩義を感じさせるのが一番だが、そうでなければ、貸しはでまかせでもいい。人の記憶は往々にしてあいまいなため、この裏ワザは人を動かすうえで大いに効果を発揮する。
ポイントは、自信満々に話して相手を納得させることである。「あなたがこれだけ自信を持って言っているのだから、きっと本当だろう」と相手に思わせることができれば、こっちのものだ。
著者の生まれた香港の裏社会では、「値段交渉はこちらが口火を切れ」という考え方が一般的だ。銃やドラッグの密売といった非合法なビジネスは、相場価格があってないようなものである。そのため、口火を切った人の価格が基準になるのだという。
しかし純粋に先に価格を提示すると、後から言う人がそれよりも低い価格を提示したら負けるのではないか、と思われるかもしれない。だが裏社会では、低い価格を提示すると周りからお金がない組織だと思われる恐れがあるため、易々とは低い価格を提示しないのだという。
このように先に価格を提示することを、心理学では「アンカリング」と呼ぶ。アンカリングとは、先行して提示された数値(アンカー)を基準に今後の意思決定がなされていくことを意味する。
例えばビジネスでこちらから製品を売り込む場合は、真っ先に高い価格を提示する。その後に相手が買えそうなぎりぎりの価格まで徐々に引き下げれば、安く買い叩かれずに済む。
「希少性の原理」を使って相手を操る方法を紹介する。著者が以前あるギャングから聞いた話によると、ギャングはときにドラッグの取引量についてウソをつくことがあるそうだ。例えば10キロのドラッグを所有しており、10キロ丸々売ってしまえばよいところを、「今7キロしかない」とあえてウソつくのだという。
その後、また別の機会に残りの3キロを450万円でどうだと持ちかける。すると相手は多少割高に感じながらも、希少なドラッグの入手を優先し、言い値で買ってくれる。読者も「限定10個」、「本日かぎり」といった広告で、ついつい不要なものを買った経験があるのではないだろうか。
希少性の原理は時間にも適用可能だ。
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