不確実なこと、前例のない課題に取り組もうとするとき、わからないからと言って手をこまねいているだけよりも、わからないなりにできる準備をしておくほうがよい。そのとき役に立つのが「確率」の考え方だ。確率を考えるにはまず、「確率的現象がどこにとのように隠れているか」を浮き彫りにする必要がある。ひとつの事象にはさまざまな要因が絡み合っており、それぞれに確率があるからだ。
まずは要因を漏れなく洗い出し、重要性の低いものははじいておく。そこから確率を考えていくわけだが、天気予報のように同一条件下での膨大なデータがある事象と違って、未曽有の課題に取り組むという状況であれば、前例やデータはほとんどないというのが現実だろう。その場合は「ベイズ推定」に代表されるような「主観的確率」の考え方を用いる。初めはある程度推定で確率を設定しておいて、情報が追加されるたびに推定を修正していくというものだ。人間の思考プロセスとの相性もよく、NASAだけでなくITや金融の分野でも主流の考え方として広まっている。
不確実な中で物事を決めていかなければならない時に役立つのがシナリオ・プランニングである。物事を左右する要因を洗い出し、その組み合わせの分だけシナリオを想定するシナリオ・ツリーや、特に重要と思われる要因を2~3に絞り、それらの組み合わせで起こる事象を想定するシナリオ・マトリックスがある。
実際、NASAが火星への着陸を実現するために検討した、「着陸により微生物が混入する可能性」の想定においてもシナリオ・ツリーが用いられ、微生物を火星に持ち込んでしまう可能性が高いのはどの要因なのか、またその確率はどの程度かを想定することに成功した例がある。
判断を下すのに充分なデータがない場合は専門家の意見を聞くことも有効だが、専門家とはいえ人間である。その意見には多少なりともバイアスがかかっていると考えておいたほうがよい。最初にインプットされた情報にとらわれてしまうアンカリング効果や、全体の中ではわずかな確率なのに、ある事象だけに目を付けすぎてしまい実際よりも起こりやすいと誤認してしまう基準率無視など、そのトラップには様々なものがある。予めなるべく偏らないように、ほかの事象と比較しながら話をしたり、複数の専門家に話を聞き総合的に判断したりするなどの工夫も必要だ。
では、どういったプロセスで意思決定していくのがよいのか。人はどうしてもバイアスのかかった判断をしてしまいがちであるので、過去の経験に判断が左右されてしまう「ヒューリスティック」や、情報をとらえるときの枠組みの取り方で印象が大きく変わってしまう「フレーミング効果」、自分の仮説に合わせて情報を解釈してしまう「確認バイアス」などにはよく気をつけなければいけない。
そのうえで合理的な選択をしていく方法を考えるわけだが、まずは目的をはっきり定めておくことが大切だ。何を目的にするかによって、どんな選択肢の中から意思決定するかも変わるためである。
不確実な中で合理的な選択をしていくには、いくつかの代表的な原理がある。
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