本書では冒頭に13問の3択が用意されている。そのひとつを紹介しよう。
質問3 世界の人口のうち、極度の貧困にある人の割合は、過去20年でどう変わったでしょう?
A 約2倍になった
B あまり変わっていない
C 半分になった
正解はCだ。ところが正しく答えられたのは世界平均で7%だけである(2017年14カ国・1万2000人を対象に行なわれたオンライン調査による)。これは無知のせいだろうか?
著者らは、さまざまな国のさまざまな分野で活躍する人々に一連の質問をしてきたが、いずれも正当率は低かった。学歴の高い人や、国際問題に興味がある人たちの場合も同様だった。
そもそも無知が原因であれば、ランダムに答えた場合の(あるいはチンパンジーに選ばせた場合の)33%に近づくはずである。何も知らないというよりは、みなが同じ勘違いをしているのではないかと思われた。実際に回答の傾向をみると、誤った2つの選択肢のなかでも、より極端なものが選ばれることがわかった。
私たちは次のような考え方に染まっていないだろうか。
「世界では戦争、暴力、自然災害、人災、腐敗が絶えず、どんどん物騒になっている」
「金持ちはよりいっそう金持ちになり、貧乏人はよりいっそう貧乏になり、貧困は増え続ける一方だ」
「何もしなければ天然資源ももうすぐ尽きてしまう」
いかにもメディアでよく聞く話だし、こうした考え方は人々に染みついているが、著者らは「ドラマチックすぎる世界の見方」と呼んでいる。精神衛生上良くないうえ、そもそも正しくない考え方だ。
その原因は、私たちの脳にある。遠い祖先の時代から長年にわたってサバイバルするために必要だった本能――差し迫った危険からとっさに逃れるための「瞬時に何かを判断する本能」、悪い予兆を聞き逃すまいとする「ドラマチックな物語を求める本能」――が、世界についてのねじれた見方を生んでいるのである。
世界はこうしたドラマチックすぎる見方に反して、基本的にどんどん良くなってきている。本書で紹介する「ファクトフルネス」という習慣を毎日の生活に取り入れて訓練を積めば、事実に基づいて世界を解釈できるようになる。そして判断力が上がり、何を恐れ、何に希望を持てばいいのかも見極められるようになる。
私たちは先進国に住んでおり、それ以外の地域に住む大半の人々は惨めで困窮した生活を送っていると思い込んでいる。しかし現実はそうではない。著者らは「先進国」「途上国」という旧来の分類に代わって、世界70億の人口を1日あたりの世帯所得をベースに、次の4つのレベルで考えることを提案している。
レベル1 1日2ドル 10億人 移動手段:徒歩
レベル2 1日4ドル 30億人 移動手段:自転車
レベル3 1日16ドル 20億人 移動手段:バイク
レベル4 1日32ドル以上 10億人 移動手段:自動車
読者の大半が属しているのはおそらくレベル4で、10億人がここに分類される。いっぽう私たちがイメージをしているような貧困に悩んでいる人々はレベル1の低所得層で、こちらも世界におよそ10億人いる。
レベル2以上の中所得の国と高所得の国を合わせると人類の91%になり、そのほとんどはグローバル市場に取り込まれ、徐々に満足のいく暮らしができるようになっている。
また実はレベル1の国でも平均寿命は62歳で、多くの人は食べ物に困らないし、ある程度安全な水道水を飲める。ワクチンを接種している子どもも多く、多くの女の子は小学校を卒業する。
このように所得の分布をとっても、世界は分断されておらず、連続した地続きなのは明らかだ。しかし人は何事も2つのグループに分けて考えたがる。
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