本書の中心テーマは、どうすれば個人や家族、企業、社会全体が長寿化の恩恵に最大限浴せるか、というものである。
現在、長寿化が進んでいる国では、高齢者医療や年金の問題ばかりが取り沙汰されている。しかし、今後は健康的に、若々しく生きる年数が長くなるため、「老い」自体の概念が大きく変わる。すると、引退後の生活だけでなく、人生全体を設計し直さなければならない。
これまで多くの人々は「教育→仕事→引退」という3ステージの人生を歩んできた。しかし、寿命が延びれば、70代、さらには80代まで働くことが当たり前となっていく。また、仕事のステージの長期化に伴い、ステージの移行を数多く経験する「マルチステージ」の人生に突入するだろう。
そこで必要となるのは、画一的な生き方にとらわれず、生涯「変身」を続ける覚悟だ。キャリアの選択肢だけでなく、パートナーシップのあり方も問い直される。夫婦が二人とも職を持つ家庭が増えると同時に、いずれかがステージを移行する際に、互いの役割を柔軟に調整し、サポートし合うことが求められる。すると、必然的に家族のあり方は多様化していくはずだ。
多くの移行を経験することになる時代では、「何を大切に生き、何を人生の土台にしたいのか」という問いに向き合わざるを得ない。自分のアイデンティティを主体的に築きながら、人生をどのように計画するか。これこそが本書の最大のテーマである。
約100年前の1914年に生まれた人が、100歳まで生きている確率はわずか1%だった。しかし、2107年の世界では、100歳生きることが普通の光景になっている。日本にいたっては、2007年生まれの50%は107歳まで生きると推測されているのだ。
健康、栄養、医療、衛生といった多分野におけるイノベーションによって、平均寿命は大きく上昇してきた。重要なのは、健康に生きる期間が長くなるということだ。認知症の解明と対処にも、今後大きな前進があると目されており、想像以上に長く生きられる可能性が高いといってよい。
一方で、長寿化に伴い、老後の生活資金をどうするかという問題が差し迫ってくる。貯蓄率を高めるか、より高齢になるまで働くか、あるいはその両方の選択が必要となる。
また、新しいテクノロジーが労働市場を激変させていくことは明らかである。産業の新陳代謝が起こり、新しい職種が既存の職種を代替する。また、ロボットやAIに、高スキル労働者が代替される一方で、新しい雇用が生まれ、経済成長を牽引するという明るい見方もある。こうした変化の中で重要なのは、人々が精力的かつ創造的に生きるための新しい人生のシナリオを考えていくことだ。
ここからは、お金に換算できない「無形の資産」に光を当てていく。家族や友人関係、知識、健康といった無形の資産は、それ自体が有意義な人生に不可欠であるだけでなく、有形の金銭的資産の形成を助けてくれる。100年ライフを過ごすうえでは、両方の資産のバランスをとり、相乗効果をねらう必要がある。長寿化の観点から重要とされる「見えない資産」は、生産性資産、活力資産、変身資産の3つに分類できる。
生産性資産とは、生産性や所得、キャリアの見通しを向上させるのに役立つ資産を指す。わかりやすい例は、長年かけて培ってきたスキルや知識である。ただし、キャリアの初期に身につけた専門技能を頼りに、長い勤労人生を生き抜くことは難しい。そのため、生涯を通じて、複数の新しいスキルと専門技能を獲得し続けることが重要になる。
3,400冊以上の要約が楽しめる