レガシーマーケット・イノベーション(LMI)とは、「レガシーマーケットにイノベーションを起こすこと」である。では、レガシーマーケットとはどのようなものだろうか。
ここで、「市場の成長性」と「生産性」の2軸のマトリックスを思い浮かべてほしい。市場の成長性が低く、生産性も低いニッチな産業が、本書で呼ぶレガシーマーケットである。ここに属する中小企業がレガシー企業である。
著者は、投資ファンドを辞めて、父親が興した会社に入社した。看板の製作施工やショーウインドウディスプレイの設計施工などを手がける、「サイン&ディスプレイ事業」を中核とした会社である。主要な業務は、リアル店舗の看板やディスプレイの企画・製作だ。イーコマースが進展するいまの時代では、とても成長産業とは呼べないだろう。
入社して著者が最初に感じたのは、中小企業には非効率な部分が多いということだった。しかし、非効率ということは、改善の余地が大きいということでもある。
仕事に打ち込むうちに著者が気づいたのは、自社内にある豊富な「アセット」だ。例えば、商品をつくる技術、既存顧客とのつながり、技術力のある社員、既存事業が生み出す利益など、あらゆるリソースが揃っている。こうした過去から引き継いできたリソースを、かけがえのない固有の資産と捉え、著者は「レガシー」と呼んでいる。
レガシーの価値を認識し、レガシーを生かした新しい商品をつくる。同時に、業界の外にある新しい技術やビジネスモデルを学び、既存の市場(レガシーマーケット)を自らの手で刷新していく。この一連の道のりをまとめたのが、本書で提唱される「レガシーマーケット・イノベーション(LMI)」だ。
レガシーマーケットは、ニッチな市場と言い換えてもいい。ニッチだからこそ、中小企業が生き残っているともいえる。また、長年にわたりビジネスモデルや市場シェアの構造が変わっていないことが多く、あまり変化が起きていない可能性もある。
変化がないことを楽観的に捉えると、「自分たちは安泰」という危機感の欠如につながる。一方、「イノベーションはベンチャーの専売特許だ」と、悲観的に捉えるとどうか。それは「何をしても変わらない」という諦めを生み出してしまう。これは思考停止といえる、非常に危うい状態だ。
市場は常に変化するため、どの時代も市場シェアを大きく歪めたり、市場のサイズを変えたりする何かが登場する。この何かのことを「ディスラプター」と呼ぶ。
ディスラプション(崩壊)は、ビジネスでは創造的破壊などと訳される。既存の市場を崩壊させる技術や、その技術を用いて新たな商品やビジネスモデルを生み出す会社がディスラプターだ。
ディスラプターはベンチャー企業とは限らないが、ここではベンチャー企業の経営者の視点で考えてみよう。彼らは、いきなり体力のある大企業が支配する市場に挑もうとは思わないだろう。まずはニッチな市場で足場を築こうと考えるにちがいない。そこで、ニッチな市場のさらにニッチな領域を深掘りしていく。そしてまだ誰も手をつけていない課題を発見し、それを解決するソリューションを開発し、マーケットに参入する。それが彼らの手法である。
ときにはアマゾンやウーバーのように、マーケット全体をディスラプトしてしまう例が出てくる。このように、外から参入してくる人たちは、「変えられる」「変えてやろう」と考えており、その熱量は凄まじいものがある。
レガシー企業には、レガシーアセットというアドバンテージがある。イノベーションを起こすために、こうしたアセットをフルに活用するのがLMIのアプローチだ。
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