本書では20世紀と21世紀初頭における経営戦略の歴史について俯瞰的に語られるとともに、主要なコンセプトが紹介されており、この1冊で経営戦略の教養を身に付けられる大書である。
その歴史をたどれば、ポジショニング派とケイパビリティ派の対立も、各種の経営分析フレームワークの源流も、直近の主要な考え方も全て味わうことができる。
それらを学ぶ動機は、経営学を学ぶ教科書でも、辞書や百科事典でも、物語として流れを追うことでも良いだろう。それでは順に経営戦略という広大で最高の知の旅を楽しもうではないか。
経営戦略を語る上では、およそ100年前の世界を生きた、フレデリック・テイラーを欠かすことはできない。テイラーはハーバード大学を目を悪くして退学し、見習い工としてキャリアをスタートする境遇を辿った後、メキメキと頭角を現す。
生産現場の課題に直面する中で、目分量だった管理から科学的な管理への必要性を痛感する。ベスレヘム・スチールでのショベル作業の研究において、ショベル1杯当りの分量、ショベルを差し込む速さや高さ、投げる時間などを最適化していく。
その結果、1人当たり作業量を3.7倍に、1人当たり賃金を63%改善する。即ち、生産量当りのコストを56%も削減する効果をもたらしたのだ。
そのような分析の集大成としてテイラーが55歳の時にまとめた書が、「科学的管理法の原理」である。そこでは①課業管理、②作業研究、③指図票制度、④段階的賃金制度、⑤職能別組織の5つをもって科学的管理法を説いている。
その効果は目覚ましかった一方で、「計画・管理と現場を分離して労使対立を激化させた」などの批判も浴びることになる。そして10年後に人間性重視を謳うメイヨーが登場する。
メイヨーは1880年、オーストラリアのアデレードで医師の子として生まれ、31歳からは教員となる。その後42歳にウォートン・スクールに移り、著名な「ミュール実験」を行う。
その内容は次のようなものだ。年250%にも及ぶ紡績部門の離職率の低減を目指し、作業環境改革を行う。彼はその原因を仕事の「単純さ」「孤独さ」からの精神的疲労にあると考え、1日4回10分ずつの休憩を導入する。その効果は目覚ましく、離職率がなんと年5%に急減する。しかし本当に休憩だけが効果を及ぼしたのだろうか。
次に電話機製造会社において、「作業効率は照明が暗くなるほど上がる」と言われていた要因を探る。チームの生産性は、照明を明るくしても、暗くしてもどんどん上がっていた。更に2万人の従業員に面談調査を行った。あまりに膨大な量だったので、面接法は自由に会話する形式となった。その結果、面接をしただけで生産性が向上している事実に直面する。
つまり、人の生産性は経済的対価の良し悪しだけでなく、社会的欲求の充足を重視するもので、感情や人間関係に大きく左右されるという結論を得るのである。これ以降、経営学の歴史において生産性向上というテーマは、人の感情というまことに複雑で深遠なものに対峙していくことになる。
本書を読まれる方はドラッカーの名は聞いたことがあるに違いない。日本でもダイヤモンド社からの書籍だけで累計400万部以上読まれているのだから。ドラッカーは正に「近代マネジメントの伝道師」であると言える。
3,400冊以上の要約が楽しめる