ハーバード戦略教室

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ハーバード戦略教室
出版社
文藝春秋
出版日
2014年01月30日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

「ハーバード」と名のつく本は巷にもたくさん溢れている。言わずと知れた世界最高峰の経営大学院、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)で学んだ卒業生が、その講義内容やキャンパス・ライフについて書いた本を目にした方も多いだろう。

しかし本書は同じ「ハーバード」でも、他の書籍とは一線を画す一冊だ。私も本書を読んで初めて知ったのだが、HBSには、年間売上が10億円から2000億円の企業のオーナーか経営者のみが受講できるコースが存在するという。本書はこのトップエリートのためのプログラムを再現したものだ。

このユニークなコースは現役の経営者を対象にしているというだけあって、本書の講義内容も単なる机上の空論に終わらない。経営者はついつい「困難があるところにこそ勝機あり!」という考えに陥りがちだし、自分の会社について戦略を立てても、「誰もが実践できる戦略を立てたから」と言って、最も大事な実行フェーズを疎かにしてしまう傾向がある。しかし著者は、自身が教鞭をとった長年の経験から、これらの陥りがちな罠を塞ぐとともに、「戦略」について経営者が採るべき姿勢を正してくれる。紹介されているケース・スタディは、当時の経営者が置かれた立場に立って考えることで思考力が養われ、読みものとしても面白いものが多い。

著者曰く、経営者は本物の「ストラテジスト」にならなくてはならない。その第一歩として、本書は非常に参考になる一冊と言えよう。

ライター画像
苅田明史

著者

シンシア モンゴメリー
ハーバード・ビジネス・スクール教授。ハーバード大学で20年以上にわたって教壇に立つ。特に近年は世界中の会社のオーナー、経営者のみに向けたエグゼクティブ・プログラムの戦略論の講義で高く評価される。ハーバード・ビジネス・スクール・グリーンヒル賞を受賞。ハーバード・ビジネス・レビューの主要寄稿者であるほか、フィナンシャル・タイムズ、アメリカン・エコノミック・レビューなど数多くの経済誌・紙に寄稿。『ハーバード戦略教室』が一般向けで初の単著となる

本書の要点

  • 要点
    1
    「どんな状況でもすぐれた経営者は成功する」という考えは間違っている。真の成功者は、業界には抗しがたい力が働いており、勝利を収めるには戦う場所の選択が肝心であることを認識している。
  • 要点
    2
    競争優位を築くためには、適切な目標を持つことが重要だ。その目標が実現可能なものかどうかを見定めるのは、リーダーの重要な責務である。
  • 要点
    3
    競争で優位に立つには、堅実で意義ある目標を定めるだけでなく、価値創造システム「戦略の輪」を細やかに調整することが必要となる。
  • 要点
    4
    すぐれたストラテジストになるためには、自分は戦略の管理者でもなければ専門家でもなく、組織の未来を作る責任を負っていることを認識し、選択を下していかなくてはならない。

要約

シラバス

Ingram Publishing/Thinkstock
「戦略」についての新たな理解

HBSのEOPプログラム(EOPはEntrepreneur、Owner、Presidentの略)は、年間売上が10億円から2000億円の企業のオーナーあるいは経営者のみが入学できる。つまり、真の意味で組織を引っ張っていかねばならないリーダーのみがこのコースを受講するのである。

EOPプログラムの「戦略論」では、戦略とは何か、どのように策定し評価するか、といった基本的なことからスタートする。続いて、競争優位を維持するにはどんな戦略が必要かを検討、現実の競争環境に即した戦略の動的モデルを学んでいく。最後にはいちばん難しい課題として、受講生それぞれが自社のための戦略を策定し、それをクラスの仲間に批評してもらう。

本書はこのプログラムの内容を8つの章に分けて紹介しており、読者はまるでこの講義を受けているかのように読み進めることが出来る。

本書の主張は明快で、経営者はこれまでの「戦略」についての考え方を根本的に見直す必要がある、というものだ。

著者はここ数年、どんな戦略を立て、どのように実行していくかということより、戦略の公式化や結果の分析が重んじられるようになっていた状況に警鐘を鳴らし、戦略の立案者とその取り組みを導くリーダーは不可分なものであると説く。そうした指揮官を本書では「ストラテジスト(戦略家)」と呼ぶ。会社を正しく導いていけるかどうかは、ストラテジストのあなたの手にかかっているのである。

業界の力

Fuse/Thinkstock
すぐれた経営者ならどこでも成功するのか

本書で最初に取り上げられるケース・スタディは、アメリカを代表する住宅・商業用建材の総合企業で、「日用品の巨人」と呼ばれた「マスコ」という企業にまつわるものだ。

1986年、マスコは年間売上高が11億5000ドルに達し、29年連続の増収を記録していた。あなたはマスコのCEO、リチャード・マノージアンになったつもりで考え、手元の資金を新規事業に投資するかどうかを決めるのだ。マノージアンが手始めとして目をつけたのが、家具業界であった。家具業界は見るからに旧態依然としており、マーケットを奪取するチャンスはいくらでもありそうだった。

マスコは革新的な水栓金具を発明し、それを販売したことで、横並びの状態に甘んじていた水栓金具業界において破竹の勢いでのしあがった。その創造力と柔軟性、そしてリスクを利益に換える力があれば、家具業界を改革するのも可能だと、マノージアンは考えたのである。

教室では、受講生が当時の家具業界についての知見が与えられたうえで、新規参入の是非を尋ねられる。マスコの経営能力を背景に、受講生の大半は家具業界への進出に賛成する。多くの人は「難題を抱えるビジネスにこそ、チャンスはある」と考えているのだ。

実際にマスコは家具業界への進出を決め、かつて水栓金具の業界で同社に勝利をもたらした戦略と同じように、低いものから最高級家具まで、様々な家具メーカーを買収した。

だがここで考えてみてほしい。一番重要なのは、彼らが儲かったかどうかであることを。

残念ながら、マスコが参入した家具業界は、企業間の競争が激しく、供給業者や顧客の影響力が強く、参入障壁が低い、「非魅力的」な業種だった。それまで32年間連続で増収を記録してきたマスコは、家具業界に参入した2年後の純利益は30パーセントも減少した。その後も長年にわたって悪戦苦闘を続け、ついにマスコは家具部門を売却する。マノージアンは家庭用家具ビジネスへの参入を決断したことは、35年間行ってきた決断のなかで最悪のもののひとつだと認めている。

この結果が示すものは何か。

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要約公開日 2014.02.25
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