本書の半分は経済小説である。あるストーリーに基づき、それに解説を加える形式でグローバル・リーダーの流儀が解説される。簡単にその骨格となるストーリーを紹介しよう。
日本のIT企業であるコネクトビジョン社は、アメリカでサービスを広げるために、シリコンバレーにあるエポックTVを買収した。しかし買収後、事業を進めようにもどうも日本とアメリカの足並みがそろわない。コネクトビジョン社長の晋介はその原因を探るべく、スタッフの大吾をシリコンバレーに派遣する。大吾はアメリカ支社長であるチャーリーをはじめ、現地スタッフにヒアリングをしながら、足並みがそろわない原因を明らかにしようとしている。
「エミリー、先週見付けたバグのテストは終わった?」
「20個のバグのうち、17個まではね。残りの3個はまだ」
「その残りの3つはいつ終わりそう?」
「私は木曜、金曜と休みをとって、月曜日から出社だから、来週の水曜日になると思う」
「うーん、これは他の作業にも影響を与えるから急ぐんだが」
「今週の水曜日までに2つは片づけられると思うけど、最後の1つは今日から最低4日はかかる。だから休暇あけじゃないとできないわ」
「そうか、仕方ない。そのスケジュールで進めてくれ」
先のような会話はアメリカでは日常茶飯事のようだ。それではアメリカ人は本当に働かないといえるのであろうか。労働政策研究・研修機構の調査によると、アメリカ人と日本人の労働時間の差は年間55時間とそれほど大きくはない。著者の実感としてもアメリカでは働く人はものすごく働くのだというが、同時に日本でよく見る「忙殺されるサラリーマン」とは少し違うという。
その理由は、①長時間はたらくことが良いとは思っていない、②義理や周囲への義務感、罪悪感に追われて働くことはしない、③ワーカホリックな人でも、プライベートや家族との時間を確保する努力をする、という価値観の違いがあるためと著者は分析している。
日本人は、成功の鍵は努力=コミットメント=労働時間と考えがちだが、彼らは成功の鍵=高い生産性と創造性であり、それを維持するための休暇は積極的にとる。そのため日本人が現地で従業員を指揮する際、日本人と同じような働き方を部下の外国人に求めれば、比較的近い労働観を持つ韓国人や台湾人はともかくとして、欧米人とは摩擦を引き起こしてしまうだろう。
日本からの要望に応えながら現地の従業員を指揮するには、①組織として、従業員からの信頼を得る、②各従業員のモチベーションスイッチを見つける、という2つの方法を取らなければならないと著者は主張している。具体的な手法は本書をご参照いただきたい。
「ケンゾー・オカムラが、アンディとスニールの上司であるティムの了解を得ずに、直接彼らに対し、技術的な質問から、マーケットの情報収集など様々なリクエストを送ってくるんだ。ケンゾーはこっちのレポートラインや組織を全く無視している。そして、アンディが、緊急の事態に対処するためすぐにはできない、などと言おうものなら、その業務を急いでやらないといけない理由をわめきたてる。アンディとスニールはケンゾーへの対応に疲れ果てて、上司のティムに訴え、それが僕のところに来たんだ。なんとか状況を改善してくれないか」
著者はアメリカの組織をレンガ塀、日本の組織を石垣に例えている。
アメリカでは組織をデザインするとき、まず、あるべき組織の形、つまりレンガを積んだ塀の絵を描く。
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