本書では冒頭著者がこれまで取材した、アジア各国に「人材フライト」した人々の事例が数多く紹介されている。ミャンマーで起業した人、マレーシアで不動産投資をする人、アジア各国の大学に留学する若者たち、シンガポールに移住する富裕層。彼らはどういった理由で日本を離れアジア各国に「人材フライト」していったのだろうか。本書の前半部分ではその現状に迫っている。ハイライトではそのいくつかの事例をご紹介したい。
まず初めに本書で紹介されているのは、いち早くミャンマーに「人材フライト」した企業人・土屋昭義氏(63歳)である。本書において土屋氏は、ミャンマーに移住した理由を「石橋をたたいて渡ったときは手遅れ。だから叩かずに渡る。もう日本で事業しても成長はない。無理して成長しようと思えば、ほかの会社から仕事を奪うことになって、それでは食い合いになる。それなら、これから成長するところ、そこに出るしかないでしょう」と、語っている。土屋氏の言う通り、2011年にミャンマーが開放政策に転じてから、世界中の企業、投資家がヤンゴンと首都ネピドーにやってきた。2013年5月には安倍晋三首相もミャンマーを訪問し、400億円の新規援助を含む大型の援助や投資、安全保障の協力を提案した。土屋氏は現在、不動産会社とビジネスサポート会社を設立し、さらにヤンゴン学院という語学学校を運営している。
土屋氏は子育てに関しても特徴的である。「うちの息子は2人とも平凡。そんな凡人は、日本ではチャンスがない。それで『お前たちは日本では勝負にならん。アジアならお前たちでも勝負になる』と送り出した。これを私は凡人による凡人のためのグローバル戦略と呼んでいます」と語り、著者は敬意を込めて土屋氏の一家を「アジア馬鹿一家」と呼んでいる。
先にも記したが、ミャンマーが開放政策に転じた今、世界中から投資が集まっている。今後は日本からの投資も増え、それに合わせて多くの日本人がミャンマーに「人材フライト」するだろうと著者は予測している。
マレーシアのジョホールバルの不動産市場はうなぎのぼりだ。シンガポールの不動産価格は東京を超えてしまっているが、ジョホールバルの物件はその4~10分の1程度で手に入れることができる。郊外での生活を望むシンガポーリアンや不動産価格上昇を見込んだ投資マネーが世界から集まってきているのだ。こうした背景から海外不動産投資で、いま日本人に一番人気がある国はマレーシアである。
日本人でマレーシアに不動産投資をしているのは、なにも富裕層だけではない。マレーシアの不動産投資はリターンもさることながら、購入の手続きが容易な点も日本人に人気のポイントである。中間層の投資家、サラリーマン投資家が、HSBCで口座を開きローンを組むという例もある。HSBCで口座を開くのはマレーシアが世界で最も安く、約600万円程度で口座開設が可能だ(香港の場合は1300万円必要)。また外国人の不動産の所有規制もない。
投資のためではなく、移住のために購入するケースも多いという。ロングステイ財団の調査によると、マレーシアは「ロングステイしたい希望国」として7年連続1位になっている。海外移住する際のビザ(ロングステイ用のビザMM2H)の取得も容易だ。
さらに、マレーシアには住民税や相続税・贈与税などがないというメリットもある。日本の年金受給者がマレーシアでの税法上の住居者となれば、双方から課税されることはない。こうした状況から日本からの「人材フライト」が人気のようだ。
「ジモティ」と呼ばれる地元だけで暮らそうとする「内向き」な若者たちがいる一方で、日本を出ていく若者も増えている。いまの若者たちは「内向き」と「外向き」に2極化していると著者は指摘している。
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