「博士号」の使い方

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「博士号」の使い方
出版社
リバネス出版
出版日
2009年04月01日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

大学院で博士号を取得した後、大学や研究所、企業などで常勤の職を得る前に位置づけられた任期付のポジションとしてポスドクと呼ばれる身分がある。しかし、日本では1990年代に旧文部省の大学院重点化計画により博士号取得者数が増加するも、彼らのポスドク任期後の大学や企業での職の定員数が変わっていないことから「ポスドク問題」や「余剰博士」と表現され、博士号取得者が職を得ることができず溢れてしまうという問題が起こった。結果として、博士課程進学者は激減し、科学技術立国を担う未来の博士が生まれにくい状況となってしまった。この非常に危険な状況を脱却すべく、本書では様々な方面で活躍し、人生を謳歌しているバイタリティー溢れる魅力的な理工系博士たち24名を取り上げることで、もっと多くの人が自分も博士号が取りたいと思うようになってもらいたいという願いが込められている。本書は三部構成となっており、第一章ではアカデミック機関で活躍する博士たちを、第二章では研究経験を生かして企業で活躍する博士たちを、第三章ではこれまで博士のキャリアとして想定されてこなかった、新たな分野で挑戦する博士たちを取り上げている。

活躍する場所は違っても、すべての博士に共通していえることは彼らが「自らの哲学と力を軸に自らの足で立ち、新しい価値を社会に提案している」という点だった。現在、博士課程在学中の学生から、これから大学院進学を考えている学生、また、これまで博士号取得者と接点がなかった方も、この本によって彼らの魅力に気づいていただけるきっかけとなれば幸いだ。

著者

研究キャリア応援マガジン『incu-be(インキュビー)』
株式会社リバネス人材開発事業部が「研究者を目指す人が一歩を踏み出すきっかけになってほしい」という願いを込めて、全国の理工系大学にて設置・配布する日本初の研究キャリア応援マガジン。2007年5月の創刊から一貫して、博士号取得者を中心としたリバネスのサイエンスブリッジライターが、若手研究者の目線で大学・企業など様々な場所で活躍する理工系人材の紹介記事を執筆・掲載するとともに研究者を目指す理工系大学生・大学院生にとって有用な情報を提供している。
ウェブサイト:http://ysep.info/incu-be/

本書の要点

  • 要点
    1
    博士には、世の中から自分なりの問いを見つけ、それを解く方法を考え、学び、導入することで検証した上で、さらにその結果から次のクエスチョンを見つけ解き明かす力がある。
  • 要点
    2
    企業のもつ技術や製品を世の中に広めるなど、研究経験があるからこそできる博士の生き方もある。
  • 要点
    3
    研究を通して培った思考力を活かして、これまで博士のキャリアとして想定されてこなかった道を新たに切り開こうとしている博士たちがいる。

要約

【必読ポイント!】無限の好奇心で研究するための場所をさがす冒険家

自分の哲学を信じて、自分の場所は自分で創る
Purestock/Purestock/Thinkstock

博士号は、英名ではPh.D、Doctor of Philosophyといい、直訳すると「哲学博士」となる。国立遺伝学研究所所長でもある小原雄治理学博士はこう言う。「Philosophyの語源はPhilosophia’ 『知を愛する』ということ、つまり、クエスチョンをもって、それを喜びとする。それが『哲学』なんです」。まだ誰も知ることがない新しい発見がしたい。誰よりも強い好奇心をもち、発見という名の未来を創る一粒の種を追い求めて、大学や研究機関で研究を続ける博士たちがいる。博士号とは、何か1つの分野で、自分なりの哲学を突き詰めてきたという証明でもある。博士課程で解いた問題は、ごく小さいことかもしれないが、じつはこの知の回転は決してサイエンスの分野の中だけで留まらない。ビジネスも本質は同じではなかろうか。この世の中から自分なりのクエスチョン(問い)を見つけ出し、それを解く方法を考え、学び、導入することで検証していく。そして、その結果からまた次のクエスチョンを見つけ、また解き明かす。このサイクルを回すことができる人は、新しい道を自ら切り開いていくことができる。

上田泰己博士(医学)は、大学医学部時代からソニーコンピュータサイエンス研究所、山之内製薬での研究経験をもち、27歳の若さで理化学研究所のチームリーダーに就任した。生命とはなにか。この問いに対して、上田氏は生物の体内時計といわれる時間のリズムを作り出すしくみについて研究を行っている。

彼が大学3年の1996年、生物学の実験でサンプルとして最もよく使われる大腸菌と酵母の全DNA配列情報が解読された。これまでの分子生物学の手法では一度に数個ずつしか因子を扱うことができなかったが、これからは数千、数万の単位で扱える生物学の手法へと転換することを意味していた。これまでの手法を根本的に変えなければならない、そう確信した上田氏は、数千以上のサンプルを同時に扱うために、自動化された機械と、その結果を処理する計算機が必要だと考えた。新しい生物学の手法を求めて、計算機を扱う生命科学を始めるために、ソニーコンピュータサイエンス研究所に飛び込んだ。製薬企業に就職し研究を続けることもできたが、上田氏は企業の人として大学院に社会人入学することを選んだ。

『既成の枠の中で自分の場所を探すのではなく、やりたいことに応じて自分のやり方を変える。自分の場所は自分で創る』のが上田氏のやり方だ。その時目指す場所によって、歩む道を変えながら、道がなければ創りだす。その姿は目的に向かって一心に進んでいく冒険家のようであり、これこそが上田博士の哲学なのだろう。

研究者だからこそ、研究現場と社会をつなげることができる

企業のもつ技術や製品を社会に広める仲介人
shironosov/iStock/Thinkstock

第二章では、研究の成果を社会で役立てたいと、博士号をもちながら、異なる専門分野の人と協力し、早く効率的に研究の成果を世の中に送り出すべく、自らの哲学をもって活躍している博士たちを紹介している。

研究の世界というとアカデミックで閉鎖的なイメージをもつ方が多いかもしれない。しかし、アメリカにおける研究室の運営はとても面白いと気づいた、と語るのは株式会社ナノエッグ取締役副社長の古野敦司博士だ。「アメリカの場合は、それまでポスドクだった人が助教として入ると、1つのラボを持つことになるんですね。

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要約公開日 2014.01.27
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