世界はどんどんフラット化している。誰もがインターネット、emailを使い、あらゆる情報が世界中の人たちの間で共有され、情報発信ができるようになった。「グローバル化」という言葉は、もはや誰もが当たり前に使う言葉だろう。このように、『個人レベルで発信する意見や価値さえもグローバルに共有される』この世界を「フラット化する世界」とアメリカのジャーナリストは表現した。フラット化した世界は『既存の権威や体制に囚われることなく新しい社会的価値を創造するイノベーションが生まれる土台』となる。そしてこの土台の上でのイノベーションこそが、これからの日本でも世界でも重要だと説くのは、医師であり日本学術会議の会長や内閣特別顧問などを歴任、世界で活躍される政策研究大学大学院の黒川清教授だ。
企業の就職口やアカデミアのポストが減少していることから、博士課程に進学する人の数が減ってきている。その現状に、黒川氏は日本の大学教育を取り巻く環境が閉塞的で、新しい思考や斬新なアイデアが生まれない状況に危険を感じているという。特に、日本では学部から修士、博士と同じ大学にとどまることが多く、これが大学の枠を超える海外の学生と大きく異なる。重要なのは、まず学部生のうちに将来自分は何をやりたいのか、向かいたい方向を見定めること。必要なら日本の外にでることで、世界の舞台で自分の価値を知ることができるのだ。
「Be somebody」。自分が自分の研究分野で他人とどう違うのか、それを学会などで、他人にしっかり認識されることが博士課程での研究者としての勝負所となる。博士人材は企業での就職口が見つかりにくいと言われるが、それは企業が博士人材の使い方をよく知らないからである。これからは、どれだけ自分で人脈の輪を広げることができるのか、それによって自分の選択肢を増やし、将来を切り開いていくことが重要なのだ。世界に人脈を広げ、自分の専門分野以外の人たちとつながっていくと、一緒におもしろいことをするパートナーがみつかるかもしれないし、有益なディスカッションができる相手がみつかるかもしれない。日本の外に出ることで、日本の良さを理解するとともに、弱さも認識できる。それを経ることで、自ずと世界での自分の価値が理解でき、可能性が広がっていくのだ。
本書の第一章では、大学や公的機関で未知の世界を探求しつづける博士たちを紹介している。たとえば、電気通信大学大学院の准教授である植野真臣博士は、統計学のバックグランドを利用して、高度な技術と深い専門性を身につける、かつ社会的に貢献できる人材を育てる場を創り上げることを目指している。
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