本書の内容に入る前に、本書の分析対象である3人のカリスマ経営者の経歴を紹介しよう。まずはジャック・ウェルチだ。
1935年生まれ。1957年、マサチューセッツ大学を卒業。1960年にイリノイ大学で博士号を取得。同年、ゼネラル・エレクトリック(GE)に入社。1981年には同社で最年少の会長兼最高経営責任者(CEO)に就任する。
「No1かNo2になれない事業からは撤退する」という方針のもと、企業買収や再編を繰り返した。大量の整理解雇でも知られるが、「フォーチュン」誌の「20世紀最高の経営者」に選出されている。
1942年生まれ。ダートマス大学を卒業後、1965年、ハーバード大学ビジネス・スクールで経営学修士(MBA)を取得。同年、米国マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。その後、アメリカン・エキスプレス、RJRナビスコで会長兼最高経営責任者(CEO)を歴任し、1993年にIBMのCEOとなる。外部からのCEOは、IBM創業以来初めて。累積赤字150億円を抱えていたIBMを立て直したことで知られる。
1941年生まれ。17歳で米海軍入隊、航空機の整備士となる(夜学で高校卒業資格も取得)。1979年、ブラニフ航空に入社。在職中にアビレーン・クリスチャン大学で学士号を取得する。その後、ウエスタン航空、ピードモント航空を経て、1989年にボーイングの役員に就任。1994年2月、コンチネンタル航空の社長兼COO(最高執行経営者)となり、同年12月には社長兼CEOに就任。倒産の危機に瀕していた同社は翌1995年に黒字に転換した。
GE、IBM、コンチネンタル航空、これら3社は間違いなく名門企業であるが、常に経営が健全であったかと言えばそういうわけではない。少なくとも本書で語られている3人のカリスマ経営者がトップに就く前は、いずれの企業も大きな問題を抱えており、崩壊寸前の企業もあったほどだ。3社はどのような経営課題を抱えていたのだろうか。
まず、IBMは1970年代から始まるパーソナル・コンピューターへの移行に乗り遅れてしまう。その結果としてIBMが主軸としていた大型コンピューターは時代遅れとなってしまい、1993年には約50億ドルという巨額の損失を発表、倒産寸前の危機に陥った。
次に、コンチネンタル航空は1994年時点で、自社のサービス品質を高めることができず、従業員はやる気を完全に失い、まさに墜落寸前の状態であった。
最後に、GEは必要に迫られる前に、自ら変革するという道を選んだため、先の2社とは異なり破たん寸前にまで追いやられてはいないものの、新興国の生産性向上に脅かされ、巨大組織にありがちな官僚主義と管理・報告業務の山に埋もれて、深刻な業績低下傾向にあったのである。
著者は、3社の失速には3つの共通点があると指摘する。名門と呼ばれる企業には、たいていの場合、学業成績も優秀で人格も優れた人たちが選抜され入社している。しかしその3つの共通点には、そこで働く人の優秀さ、愚かさとは関係がなく、別の力学が働いているのだ。
1つ目の共通点は、「責任をとらない上司、“自分の問題ではない”という病」である。
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