ソフトバンクの幹部が自社の強みとして口をそろえて挙げるのは、経営判断の速さだ。「スピード(経営)では絶対に勝つ。世界中のあらゆる企業と比べても負ける気がしない」と自負するほどである。
例えば、一般に経営会議と言えば取締役や役員クラスの幹部が集まって意思決定を下す様子を思い浮かべるが、ソフトバンクでは一般社員から社外の人間まで、議題に関連した分野について最も詳しい知識を持つ人間をすべて呼んでいるという。議論の最中に不明点があればどんどん人を追加招集するため、最初は数人で始まった会議が気づけば20~30人になっていることもあるそうだ。
物事が即決でどんどん進むため、集まった人間は皆、自分の意見を我先に主張する。現場の担当者も無謀な内容と判断すれば、全力で阻止するために立ち上がって異議を唱える。孫正義社長ですら割って入らないと発言させてもらえず、時には孫社長ですらボコボコに言い負かされるそうだ。
何事も即断即決。孫社長が「動物園」と表現する経営会議が、ソフトバンクのスピード経営を体現している。
ソフトバンクのスピードは他を寄せ付けないものがある。突拍子もないアイデアでイケイケというイメージと裏腹に、そのモーレツぶりを支えているのは、実は徹底した数字至上主義だ。数字の明確な裏付けがなければ動かないが、一度動き出したら進ちょく状況をつぶさに確認し、修正を繰り返す。
ソフトバンクでは、まず数値目標と達成時期を決め、必要な施策を検討するという、逆算スタイルを採用している。効果の予測と検証を日々繰り返し、予測が外れたらたとえ良いほうに外れてもその理由を追求する。悪いほうに外れても怒られることはなく、施策の修正を行うのみだ。
社員は目標を数字でコミットすることを求められ、数字による明確な根拠があれば1000万円でも1億円でも平気でポンと予算が出るという。普通の会社であれば稟議と決済に相当な時間を費やすことを即決するのだから、やりがいを感じる社員は多い。
ソフトバンクには失敗を恐れず、とにかく実践する文化がある。成功も失敗も含め、これまで様々な角度で取り組んできた実績が膨大に蓄積されている。自社で積み上げた実績が重視されるのは、失敗を含めた経験値の豊富さがあるためだ。
ソフトバンクでは成果を上げながら努力を続ける者が次々と昇進していく。「自ら手を挙げた人に機会を提供する」という企業方針を掲げ、アルバイトが部長代行まで昇進した例もあるそうだ。
完全な実力主義でフラットな状態なので、派閥も発生しない。ソフトバンクはこれまで日本テレコム、ボーダフォン日本法人、ウィルコムなどを立て続けに買収したが、派閥はおろか、出身母体で固まるような傾向も全くないという。出身母体に関係なく、成果だけが問われる。成果を出せばちゃんと評価されるので、自分がコミットしたことに対する達成意欲はすさまじいものがあると胸を張る。
ソフトバンクの社内には失敗を恐れない文化が浸透している。ほとんどの幹部が「失敗は数えきれない」と公言するが、金額が大きい失敗であっても評価が著しくマイナスになることはないという。
多くの企業では失敗は避けるべきことで許されないのに、ソフトバンクではなぜ失敗を恐れないのか。
3,400冊以上の要約が楽しめる