出光佐三の日本人にかえれ

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出光佐三の日本人にかえれ
出版社
出版日
2013年10月21日
評点
総合
3.2
明瞭性
3.0
革新性
3.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

人気作家、百田尚樹の「海賊とよばれた男(講談社)」を読んだことがある人も多いだろう。この小説のクライマックスで描かれる「日章丸事件」は、戦後からわずか8年後、石油を求めて日本の小さな石油会社のタンカーがイギリス海軍の海上封鎖を突破してイランに入港したという、当時としては世界的な大事件であった。

そしてこの物語のモデルとなったのが、出光興産の創始者である出光佐三(いでみつさぞう)である。出光氏は1981年に95歳で亡くなったが、その名言である「日本人にかえれ」は、小説のヒットによって改めて注目を集めた格好だ。

それではなぜ今、出光佐三が見直されているのだろうか。それは、私たち日本人が生きる指針を見失っているからにほかならないと、私は考える。

日本人は崇高な精神を有していたはずなのに、いつの間にかその強みが失われてしまった。心のどこかでその復活を期待しておきながら、その糸口すらつかめずにいる。ひょっとしたら、「真の日本人」と呼ばれた出光佐三にスポットライトをあてることで、日本人の役割を見つけるきっかけになるのではないか。出光佐三に注目している人は、そのように考えているのかもしれない。

本書は出光佐三の言葉を引用しながら、著者の北尾吉孝氏が出光佐三の生い立ちについて解説し、併せて自らの意見を述べた一冊だ。「海賊とよばれた男」を読んで感動した人はもちろん、多くの方が「こんな日本人がいたのか」と改めて感心させられることであろう。

ライター画像
苅田明史

著者

北尾 吉孝
1951年、兵庫県生まれ。74年、慶應義塾大学経済学部卒業。同年、野村證券入社。78年、英国ケンブリッジ大学経済学部卒業。89年、ワッサースタイン・ペレラ・インターナショナル社(ロンドン)常務取締役。91年、野村企業情報取締役。92年、野村證券事業法人三部長。95年、孫正義氏の招聘によりソフトバンク入社、常務取締役に就任。現在は、証券・銀行・保険などのインターネット金融サービス事業や新産業育成に向けた投資事業、バイオ関連事業など幅広く展開している金融を中心とした総合企業グループのSBIホールディングス代表取締役執行役員社長。公益財団法人SBI子ども希望財団理事及びSBI大学院大学の学長も務める。

本書の要点

  • 要点
    1
    出光佐三は「人間尊重」に基づく家族主義を唱え、終戦時に出光の仕事はまったくなかったにも関わらず、一人も解雇を行わなかった。
  • 要点
    2
    イギリス海軍の海上封鎖を突破してイランの石油を買い付けた日章丸事件。石油の所有権をめぐる裁判において、出光佐三は一貫して正義を貫き裁判で勝利することで、産油国との直接取引の先駆けとなった。
  • 要点
    3
    出光佐三は、物質文明はいつか行き詰まり、その際に必要とされるのは心の豊かさだと主張した。その際に世界の手本となるのが日本人であり、それは「日本人にかえれ」という言葉に表れている。

要約

戦後の復興のなかで

マイナスからの再出発
iStock/Thinkstock

1911年に「出光商会」として創業した出光興産は、世界大戦が終了する頃には従業員数1000人を超え、そのうち800人が海外での業務に従事していた。しかし第二次世界大戦に敗れたことで、それまで領土としていたアジアの国々に対して日本は領有権を失い、出光氏がつくり上げたアジアの各拠点も、すべて失われてしまう。

ゼロどころかマイナス地点からの再出発。出光氏は既に59歳になっていたが、それでも出光氏は終戦から二日後、社員を前にこう述べた。

「一、愚痴を止めよ 二、世界無比の三千年の歴史を見直せ 三、そして今から建設にかかれ」

普通の人であれば、失ったものに茫然としてそこに立ち尽くし、何も考えられなくなり、頭が真っ白な状態になってしまうものだ。そういう状況で、「3000年の歴史を振り返って日本人というのはどういう民族か考え直せ」という訓示をしたということが、出光氏の偉大さを際立たせている。

「一人の馘首もならぬ!」

前向きに社員を鼓舞する言葉を発した出光氏だが、終戦時に出光の仕事はまったくなかった。そのうえ、海外で働いていた800人が引き上げてくる。常識的に考えれば、社員には一度会社を辞めてもらい、その中からいい人だけを再度雇って再建策を講じようということになるだろう。

そうした建言が重役から出されたが、出光氏は「まかりならん。こういうときこそ、日頃唱えている家族主義を実行しなければいけない。(中略)一人も辞めさすことはならん。出光は事業はなくなり借金は残ったが、海外にいる人材こそ唯一の資本である。」と説き、従業員の解雇を断った。

GHQから依頼されたラジオの修理、販売を手掛けたり、旧海軍の石油タンクの底に残る泥水混じりの油をすくったりしながら、家族である社員を守るために仕事を探し続けたそうだ。

経営の神様と呼ばれた松下幸之助ですら、終戦直後に印象的な言葉は残していない。それだけ出光氏の言葉は非常に強いものであり、またその覚悟を感じさせるものであった。

【必読ポイント!】 日章丸事件

根本の枷は取りはずされた
iStock/Thinkstock

イギリスが利権を握り、巨額の富を得ていたイラン国内での石油開発に対してイランが反発し、石油の国有化を目指していた。イラン政府は石油の国有化を宣言し、それを抑えようとしたイギリスとの関係は悪化、イラン国内で激しい反イギリス運動が起きていたのだ。

イランの石油輸入を一度は断念した出光氏だったが、アメリカとイギリス、フランス、オランダなどの各石油会社が組合をつくってイランの石油を買うというニュースを聞き、イランへ石油の買い付けに行く決心をした。

派遣した日章丸がイギリス海軍に拿捕されればイランから買い付けた石油はすべて没収される可能性があったが、拿捕はされるかもしれないが撃沈させられて人命を失うことはなさそうだと判断した出光氏は、1953年3月に神戸港からイランに向けて日章丸を送り出した。

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要約公開日 2013.12.30
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