著者の坂本氏は本シリーズにおいて、本当の企業経営とは「五人に対する使命と責任を果たすための活動のこと」であると定義し、使命と責任とは「幸福の追求」「幸福の実現」であると説いた。
その五人とは①社員とその家族、②社外社員(下請け・協力会社の社員)とその家族、③現在顧客と未来顧客、④障がい者や高齢者などの社会的弱者、⑤出資者・支援者、のことだ。
ところが現実には、多くの経営者が、業績重視・成長重視・シェア重視・ランキング重視といった、間違った経営をしているようにみえる。そして業績や成長を目的にした結果、前述の五人、特に①~④の四人の人々を苦しめてしまっているのが、今という時代と言えよう。このことは、うつ病等の精神障がい者の激増や自殺者の増加、離職者の増加などに表れている。
ところで坂本氏が全国各地の6500社を訪問し研究してきたところ、好不況にかかわらず、その業績がほとんどぶれない企業が一割ほど存在した。そうした企業の共通項は、「人間尊重経営」「人本経営」、つまり人を大切にする、人のしあわせを念じた経営が貫かれていることであった。
本書に紹介されているのは、それらの企業の典型ともいうべき7社である。
本書で最初に取り上げられているのが香川県さぬき市に本社のある「徳武産業」だ。徳武産業は、足の不自由な高齢者や障がい者のためのケアシューズをつくっている会社で、現在は社長の十河孝男氏と、その妻で創業者の長女でもあるヒロ子副会長によって運営されている。
実は徳武産業は最初からケアシューズを作っていたわけではない。1993年、それまで徳武産業は通販会社からルームシューズのOEMを請け負っていたが、取引先である通販会社の外注・購買担当者の交代をきっかけに売上が大幅ダウンとなってしまう。
そんな、行き詰っていたときのこと、十河社長は特別養護老人施設を運営している友人から、「高齢者が転ばないような履き物をつくってくれないか」と相談を受ける。
その友人の施設では、筋力が衰えたり病気などで足を十分にあげることができず、平らなところでつまずいたり、片方のスリッパをもう片方の足で踏んで転倒するといったことが日常茶飯事だったのだ。
十河社長は「自社の技術ならつくれるだろう」と思い引き受けたが、これが案外うまくいかなかった。
というのも、高齢者の足は外反母趾やリウマチ、むくみなどのさまざまな症状があり、人によって左右の足の長さが違ったり、幅に差があるなど、サイズが微妙に違うからだ。高齢者向けリハビリシューズの開発にあたり、約500人の高齢者の歩行の悩みを聞いたという。
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