前作『日本でいちばん大切にしたい会社』において、著者である坂本氏は、本当の企業経営とは「五人に対する使命と責任を果たすための活動のこと」であると定義し、使命と責任とは「幸福の追求」「幸福の実現」であると説いた。
五人とは①社員とその家族、②社外社員(下請け・協力会社の社員)とその家族、③現在顧客と未来顧客、④地域住民、とりわけ障害者や高齢者、⑤株主・出資者・関係機関、のことだ。
また坂本氏は、この五人のなかで最も幸福を追求すべきは①~④の四人であり、⑤株主や出資者の幸福や満足はあくまで前の四人の使命と責任が果たされれば、その結果として自動的にもたらされるものだと述べている。
近年、株主や出資者を重視して短期の業績を追い求めるあまり、企業の不祥事が次々に露呈し、社内外のリストラも横行してしまっている。
なぜ「企業の盛衰を決定づける最大の人」と言われてきた③の顧客より、①社員とその家族、②社外社員とその家族が重要な存在なのだろうか。
その理由を坂本氏は、「自分が所属する会社や組織に不平・不満・不信感をもった社員や、自分が所属する組織に感動や愛社心をもち合わせない社員が、顧客に対して心を込めた接客サービスや、感動的商品の創造提案をすることなどできるはずがないから」と述べている。
社員に犠牲を強いる企業は、業績が悪化すると決まってその原因を外に求め、自社は被害者だと決めつけている。しかし本書で紹介されている「日本でいちばん大切にしたい会社」はむしろ問題はすべて内にあると考え、五人に対する使命と責任を果たそうと、血のにじむような自己革新努力を行なっている。
ではどういった企業が「大切にしたい会社」なのか。早速見ていくことにしよう。
本書で最初に取り上げられているのが北海道の札幌に本社のある「富士メガネ」だ。富士メガネは東京や東北など道外にも展開しているが、主な店舗は北海道に集中している。
業績もほぼ順調に推移し、100年に一度の不況といわれるなか、2009年の売上高は前年比横ばいの81億円、経常利益率は約5%だという。同業他社の大半が赤字経営にあえぐなか、きわめて好調な業績を維持している。
道内一のメガネ店への成長発展をもたらしたのは、単なる利益の追求に主眼を置くのではなく、ただひたすら「もっといいメガネを多くのお客様に提供したい、お客様に喜んでもらいたい」という創業者の金井武雄氏の情熱があってこその結果だった。
1940年には当時希少だったアメリカのメガネ研究の専門家の指導を受け、1965年には海外製のレンズのコーティングマシーンやレンズの製作プラントを導入し、それまで10日から2週間かかっていたレンズ製作をわずか1時間で仕上げられるようにした。
これは実は採算が合わない膨大な投資で、金井氏は「採算が合う、合わないより、お客様に10日も2週間も待っていただくことのほうが申し訳なく、恥ずかしいことです」と語ったそうだ。
金井武雄氏の跡を継いだ現会長兼社長の金井昭雄氏は、創業45年を機に「これまでさまざまな方から受けたご恩をお返ししたい」という強い想いから、海外難民視力支援活動を始めた。
このプロジェクトは坂本龍馬の「海援隊」をヒントに「視援隊」と名付けられ、500組のメガネを用意してタイの難民キャンプに向かったのが第一回目の活動であった。
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