著者の坂本氏は本シリーズにおいて、企業の経営者が何よりも、誰よりも幸せづくりに力を注がなければならない対象は「社員とその家族」だと唱えてきた。
その理由の1つは、景気にぶれない企業の変わらない特長がそこにあるからだ。坂本氏が過去40年以上にわたって、全国7000社以上の企業を訪問調査するなかで、好不況にほとんど関わりなく好業績を持続している企業が10%程度存在していることがわかった。
その企業に共通していることが「社員第一主義経営」であり、「大家族経営」だったのだ。このことを貫いている企業でおかしくなった企業は、大げさに言えば歴史上存在しなかったのである。
また、組織や上司に感謝の念、尊敬の念をもって仕事に取り組んでいる社員は心が満たされているから、顧客満足度を高めることによって日頃の恩返しをしようと考える。そのことからも、「社員第一主義経営」が正しいことは容易に想像できるはずだ。
茨城県を中心に北関東一円に和食ファミリーレストランを70店舗近く展開している「坂東太郎」は、「親孝行」を経営の柱に据え、日本一人が幸せを実感できる企業をめざす温かさあふれる会社だ。
単に業績が伸びているとか成長しているだけなら、ほかにもたくさん外食企業があるが、坂本氏がこの「坂東太郎」が日本でいちばん大切にしたい会社の1つに挙げた理由は、現社長の青谷氏の「親孝行・人間大好き」にかける熱い想いに共感したからだという。
青谷氏は修行先からのれん分けをしてもらう形でそば屋「すぎのや境店」をオープンして独立した。売上の8割は出前で、遠方からの注文でもざるそば一枚でも断らず配達し、順調に売上が伸びていったという。しかしこのビジネスモデルは大きな転換を迫られる。
それは、バイクで出前に出た従業員が交通事故にあい、生死をさまよう大怪我を負ったことがきっかけだった。これまで店は「親孝行」を標榜してきたにもかかわらず、従業員を危険な目にあわせてしまった。自分は人を殺すために商売をしているのか。
青谷氏は怪我を負った従業員を前に「これからは出前はいっさいやめる。君たちを危険にさらすようなことはしない。だからどうか助かってくれ」と祈り、幸いその従業員は一命をとりとめた。
出前をやめて少なくなった売上は、店舗面積を広げたり、店舗数を増やしたりすることで補ったそうだ。さまざまな業態のレストランを展開する「坂東太郎」の原型は、このときにスタートしたのである。
店舗数が5店舗に増え、さらに拡大しようとしている矢先、青谷氏はもう一つの壁にぶつかる。バブル景気で人手不足が深刻になり、中核になって働いてくれていた従業員たちが次々と辞めていったのだ。離職者は全体の3分の1にも達したという。
少しでも従業員の負担を軽くしようと、青谷氏と奥さんは夜を徹して店舗の掃除や翌日の仕込みを行ったが、出口が見えない重労働に二人とも心が折れそうになっていた。
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