ブラック企業

日本を食いつぶす妖怪
未読
ブラック企業
ブラック企業
日本を食いつぶす妖怪
未読
ブラック企業
出版社
文藝春秋
出版日
2012年11月20日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

2009年の11月に公開された映画「ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない」を観たことがある人もいるだろう。小池徹平主演の本作は、ソフトウェア業界の厳しい労働状況が描かれた映画として話題を呼んだ。「ブラック企業」という言葉が、一般に用いられるようになったのはちょうどこのころだ。

さらに2013年には「ブラック企業」が新語・流行語大賞を受賞し、NPO法人POSSE代表で一橋大学大学院生の今野晴貴氏が授賞式に出席した。本書はその今野氏がこれまでPOSSEで受けてきた相談に基づくブラック企業の実態やその考察がなされた書籍である。

ブラック企業と聞くと、とにかく過酷な労働状況を想像される方が多いであろう。しかし、私が本書を読んだ感想では、ブラック企業の凄さは何といってもその「辞めさせる技術」にあると思われた。労働法上、使用者である企業側が従業員を「解雇」した場合、法的なリスクを背負うことになる。だからこそ、ブラック企業は「解雇」せずに辞めさせるのである。

その具体的な手法とは、徹底的に「自己都合退職」に追い込むというものだ。「自己都合」で退職した場合、「解雇」とはならず、法的リスクは極小化される。さらに高度なブラック企業は「ソフトな退職強要」という手法を用い、辞めさせる技術により一層の磨きをかけているのだという。

自分や友人を守る意味でも本書を読み、ブラック企業の実態を知っておくことは一定の価値があるだろう。

著者

今野 晴貴
1983年、宮城県生まれ。NPO法人POSSE代表。一橋大学大学院社会学研究科博士課程在籍(社会政策、労働社会学)。日本学術振興会特別研究員。著作に『マジで使える労働法』(イースト・プレス)、『ブラック企業に負けない』(共著、旬報社)など。2006年、中央大学法学部在籍中に、都内の大学生・若手社会人を中心にNPO法人POSSEを設立。年間数百件の労働相談を受けている。

本書の要点

  • 要点
    1
    ブラック企業は、「コスト=悪」という価値観を新卒社員の頃から意識の深くに根付かせ、「仕事できない自分はコストであり、自分が悪い」という意識を抱かせることに長けている。
  • 要点
    2
    ブラック企業には、「月収を誇張する裏ワザ」「正社員という偽装」「戦略的パワハラ」などの8つのパターンが存在し、その企業がブラック企業か否かを見分けることができる。
  • 要点
    3
    ブラック企業は、従業員を意図的に鬱病に追い込み、自己都合退職に追い込む。より高度なブラック企業は「ソフトな退職強要」を行い、この行為は立証できても違法性を問うことすら困難である。

要約

ブラック企業の実態

IT企業Y社の事例―徹底的な従属とハラスメント
iStock/Thinkstock

本書では、まず今野氏がこれまでに受けてきた相談に基づく、ブラック企業の実態がいくつかの実例をもとに紹介されている。ここではそのひとつである、IT企業Y社の例を紹介しよう。

Y社は1000人近い社員を擁する都内のITコンサルティング会社である。ただし、コンサルティング業務は事業全体の1割程度であり、その多くは顧客に従業員を派遣してIT関連の下請け業務を行う派遣業であるというのが実態である。Y社はホームページによると、資本金1億円、売上90億円。IT業界の中では成長企業として知られている。

今野氏はこれまで、Y社に勤める複数の社員から相談を受けたという。これから紹介する2者は08年4月入社の新卒社員である。まずAさんは、サーバールームで勤務中に歌を歌っていたことを理由に派遣先を解約され、その後は「カウンセリング」と称する上司からの退職強要を受けていたそうだ。Y社のようなコンサルティング業界では、派遣先が見つからない状態を「アベイラブル」と呼び、アベイラブル状態の従業員は「コスト」と認識される。つまり、「他社に派遣されて収益を生むべきであるにもかかわらず、利益を全く上げずにいるため、コストである」というネガティブな解釈をされるのだ。Aさんは毎日2時間以上も上司から拘束されては叱責を受けた。「お前は信用されていない」「人間として根本的におかしいから、感謝の気持ちから考える必要がある」「コンプレックス、自分史を書いてこい」「リボーン(生まれ変わり)させたい」というのが担当した上司の言葉だったという。そうした中で、Aさんは「自分はダメなもの」という意識を持ち始め、カウンセリングが始まった同月内に自己都合退職に至った。

次にBさんの事例を紹介しよう。Bさんは、社長アシスタントという、要は社長の雑用係についた。Bさんはその2週間後、「仕事が遅いのは見た目を気にしているからであり、コンサルタントで採用されたことを引きずっている」との理由で、グレー無地のスウェットでの通勤・勤務を命じられる。就業時間外であっても呼ばれればすぐに社長や副社長のもとに向かい、ペットの散歩などの雑務をこなさなければならなかった。「気がつかえない。おもしろくない」と叱責され、なぜ面白くないのかを数時間にわたって問い詰められたという。同僚の目から見ても明らかなほどに痩せて顔色が悪かったらしく、Bさんは配属から3か月後に自己都合で退職した。

このようにして、Y社の08年新卒は2年間におよそ半数が退職したのだという。Y社はとにかく「自分が悪い」という状況を作り出す。人事部執行役員による入社式でも、「お前たちはクズだ。その理由は、現時点で会社に利益をもたらすヤツが一人もいないからだ。赤字は悪だ。お前たちは先輩社員が稼いで来た利益を横取りするクズだ」という挨拶がなされ、その後の研修でも徹底的に「コスト=悪」という価値観を叩き込まれていく。Y社はとにかく大量採用を行い、優秀な人材のみを残し、あとは大量解雇するという選別を行っているのである。

以上が本書でブラック企業として紹介されているY社の実態である。本書の第1章においては、上記のY社に加え衣料品販売店X社の事例が紹介されているが、こちらもブラック企業で働いたことがない人からすれば驚きの内容だ。本書の第2章では「若者を死に至らしめるブラック企業」という題目のもと、複数社の実例が紹介されている(なんと社名も明らかになっている)。ブラック企業の実態をさらに覗いてみたいという方は、是非本書をご覧いただきたい。

ブラック企業のパターンと見分け方

ブラック企業の8パターン
Wavebreak Media/Thinkstock

ブラック企業の指標は何といっても大量採用・大量解雇の実態にある。ブラック企業はこれまで見てきたように新卒をある種の交換可能な「物品」のように扱う。社員は精神疾患をきたし、その後のキャリアは破壊されてしまう。第3章では今野氏はブラック企業の8つのパターンを解説している。ここではそのいくつかを紹介したい。

まず一つ目は、「月収を誇張する裏ワザ」を使う企業である。

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要約公開日 2013.12.13
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