本書は第1部と第2部から構成されている。第1部では経営者が心すべき「五人」に対する使命と責任について、第2部では本書のタイトルにもなっている「日本でいちばん大切にしたい会社」5社の実例が紹介されている。
著者である坂本氏はこの本を執筆するまでに6000社を優に超える企業研究を行ってきたそうだ。その中でも選りすぐりの5社が紹介されているとあって、本書にて取り上げられたエピソードはどれも感動するものばかりだ。
第1部の冒頭で、坂本氏は「会社は誰のために?」という問いに対し、「会社は経営者や株主のものではない」と喝破している。氏によれば、会社には「五人に対する使命と責任」があり、その五人に対する使命と責任を果たすための行動のことを、本当の「経営」と定義しているのだ。それではこの五人とは誰か。
五人の一番目は、社員とその家族である。お客様ではなく社員を一番目にあげる理由は、お客様が満足するようなサービスを提供するには、社員の満足度が高くなければならないからだ。
二番目は、外注先、いわゆる下請企業の社員とその家族である。著者に言わせると、それらの人々は「社外社員」と言え、発注者と下請企業・外注企業のあいだで利益に大きな差があれば、それは健全な状態とは言えないからだ。
三番目に挙げられるのが顧客、四番目が地域社会あるいは地域住民に対する使命と責任で、五番目に株主が当たる。多くの経営者が株主の満足度を優先して追求する経営を標榜しているが、株主の満足度はこれまでの四人の満足度を高めれば、必然的に発生するものであり、株主とこれまで述べてきた四人を同列に考えるべきではないのである。
坂本氏が取り上げる「日本でいちばん大切にしたい会社」は、自分たちにしかできない仕事をしているオンリーワンの会社ばかりだ。そのすべてが、物ではなく心を大切にしている会社だ。本書ではまず、「日本理化学工業株式会社」というダストレスチョーク(粉の飛ばないチョーク)を製造している会社が紹介されている。この会社は従業員が約50名で、およそ7割が知的障害をもった方々で占められているという。
さらりと書いてあるが、7割もの障害者を雇用している企業が、読者の方々の周りに存在するだろうか。いったいどうすれば7割もの障害者を雇用することが可能なのか。どんな仕事を与え、どんな風に周りの社員と一緒に働いているのか。その秘密は、この会社が障害者の雇用を始めた50年前にさかのぼる。
1959年のある日、近くにある養護学校の先生が、日本理化学工業を訪ね、障害をもつ二人の少女を採用してほしいと依頼してきた。
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