2011年3月11日。東日本大震災が起き、刻々と被害の深刻さが明らかになっていくなかで、ヤマトグループは大きな決断をした。被災地の生活・産業基盤の復興と再生支援を目的にサイズ・運賃などにかかわらず、2011年度の一年間、国内の宅急便の取り扱い1個あたり10円を、ヤマト福祉財団を経由して寄付することにした。もちろん宅急便の総量の値上げなし、ヤマトグループの利益を削るという決断だ。
合い言葉は、「宅急便ひとつに、希望をひとつ入れて。」結果として、寄付額は142億8448万751円に達した。寄付金は、被災地からの応募総数174件から慎重に先行し、31件を選出し、142億6600万円の助成に活用した。
「サービスが先、利益は後」これは宅急便の生みの親、小倉昌男が繰り返し口にしていた言葉である。今回の震災に際しても、その精神が自ずと発露されたのだ。
寄付金はヤマト福祉財団の「東日本大震災 生活・産業基盤復興再生募金」へ寄付し、被災地への助成の原資とした。企業が災害に対して寄付する場合、政府や日本赤十字などに寄付金を預け、運用を一任するのが通常のケースだ。しかし、今回はヤマト福祉財団を経由し、個人ではなく団体に助成するというかたちとした。その理由は、できるだけ早い復興のため、自分たちからも形がはっきり見える効果の高い支援を行いたいと考えたためである。
第一次の助成先は2011年8月24日に決定した。助成先の選考に当たっては、有識者から構成される第三者委員会である「復興支援選考委員会」を組織した。委員長は早稲田大学商学学術院教授の内田和成氏、委員として、東京大学大学院工学系研究科社会基盤学科教授の家田仁氏、東京農業大学名誉教授の小泉武夫氏、プライスウォーターハウスクーパース株式会社パートナーの野田由美子氏、京都大学防災研究所巨大災害研究センター教授の林春男氏にお願いをした。
委員会の提示した支援先採用指針は3つある。
一、見える支援・早い支援・効果の高い支援
二、国の補助のつきにくい事業
三、単なる資金提供でなく新しい復興モデルを育てるために役立てる
被災された多くの方々と接し、身に染みて感じたことは、どれだけの金額を助成しても、そこにいる人が元気にならなければ、助成の目的は達成されないということだ。建物・設備が整っても、人が元気にならなければ、粘り強く復興を続けることはできないだろう。
二〇一一年一〇月にいち早く再開した宮城県南三陸町の仮設魚市場の事例がそれを如実に物語っている。
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