未来のスケッチ

経営で大切なことは旭山動物園にぜんぶある
未読
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経営で大切なことは旭山動物園にぜんぶある
著者
未読
未来のスケッチ
著者
出版社
出版日
2015年01月12日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

本書は、北海道旭川にある旭山動物園の経営について、早稲田大学ビジネススクール教授である遠藤功氏が現場のヒアリングに基づき考察したものである。旭山動物園に行ったことがあるという人も多いのではないだろうか。私も北海道が地元であり、旭山動物園には何度か足を運んだことがあるのだが、その度に他の動物園とは異なるリアルな動物のすごみを感じた。旭山動物園の来園者数は、メディアで話題になった平成19年には300万人(上野動物園に匹敵する来園者数)を超え、以後現在も200万人程度で推移している。

北海道の、しかも札幌ではなく旭川にある動物園が、なぜそれほどまで多くの人を惹きつけるのであろうか。その答えは独特な展示手法にある、ということを既にご存知の方も多いだろう。確かに旭山動物園は、「行動展示」という動物の魅力を最大限引き出す展示手法をあみだし、他の動物園との差別化を図っている。では、なぜ「行動展示」という動物園のイノベーションを彼らが生み出すことに成功したのだろうか。その理由を語れる人は、多くはないだろう。これこそがまさしく本書のテーマなのである。

遠藤功氏の主張の持ち味と言えば、「現場力」である。遠藤氏は、これまでの書籍でも一貫して「現場力」について語っている。「旭山動物園でも現場力が来るのか!」と思い、本書を読んでいた私の期待は裏切られず、廃園寸前の旭山動物園再生のカギは、やはり「現場力」にあった。

これまで旭山動物園の魅力的な展示手法などにフォーカスした書籍、ガイドブック等は多数存在していたが、ビジネス書として経営を分析している書籍を見たのは初めてだ。遠藤功氏の現場力に関する主張が、旭山動物園の経営に関してどのような切り口で語られるのか、本書を是非お読みいただきたい。

著者

遠藤 功
早稲田大学ビジネススクール教授。株式会社ローランド・ベルガー会長。
早稲田大学商学部卒。米国ボストンカレッジ経営学修士(MBA)。三菱電機株式会社、米系戦略コンサルティング会社を経て、現職。早稲田大学ビジネススクールのMBA/MOTプログラムディレクターとしてビジネススクールの運営を統轄。また、欧州系最大の戦略コンサルティング・ファームであるローランド・ベルガーの日本法人会長として、経営コンサルティングにも従事し、高い評価を得ている。ローランド・ベルガードイツ本社の経営監査委員でもある。中国・長江商学院客員教授。

本書の要点

  • 要点
    1
    旭山動物園再生のカギは飼育係員全員で作った「14枚のスケッチ」であった。厳しいときこそ、皆で思いを語り、具体的なイメージを「スケッチ」として掲げるべきである。
  • 要点
    2
    旭山動物園において高い現場力を実現する上で、①何でも自分でやったこと、②失敗を恐れずチャレンジし続けたこと、③現場一人一人の強烈な使命感があったこと、の3つの事実が重要な意味を持った。
  • 要点
    3
    「動物のすごさ、美しさ、尊さを伝える」という信念が飼育係員ひとりひとりの意識の中に深く根付いていたからこそ、信念を実現することができた。
  • 要点
    4
    飼育係員ひとりひとりの創意工夫が積み重なった結果、「行動展示」というイノベーションが生まれた。旭山動物園のイノベーションの鍵は「現場力」にある。

要約

【必読ポイント!】ビジョン

moodboard/moodboard/Thinkstock
厳しい時こそ皆で思いを語り、「スケッチ」を掲げるべし

旭山動物園の再生を語る上で、欠かせないのが、「14枚のスケッチ」である。このスケッチは旭山動物園の飼育係員たちが理想の動物園について自分の思いやアイデアを出し合い、イラストにまとめたものだ。本書によると、このイラストを描き上げる飼育係員たちは、昼夜を忘れて議論に熱中し、自発的にスケッチを完成させたのだという。

著者が特に注目しているのは、このスケッチが作成された1989年は、旭山動物園は冬の時代だったという点だ。旭山動物園の来場者数は83年に60万人を記録して以来、減少傾向が続き、自治体からは「もう動物園はいらないのでは」という厳しい声にもさらされた。予算もつかないため投資もできず、集客力が落ちていくという悪循環に陥ってしまったのだ。

この状況で生まれたのが「14枚のスケッチ」である。苦しいときに夢を語るというのは、簡単なようでなかなかできることではない。しかし、厳しい環境を乗り越えるときこそ、目線を上げ、未来を志向するための「旗」が必要なのだ。この「14枚のスケッチ」が卓越しているのは、目に見える絵に落とし込んで具現化したことにある。全員でイメージを共有することができれば、描いたスケッチは必ず実現できるのだ。

旭山動物園に転機が訪れたのは96年、新しい市長が就任した時である。新市長にプレゼンをする機会を獲得した前園長の小菅さんは、「14枚のスケッチ」を握りしめて臨んだという。動物の魅力をありのままに伝えるという動物園関係者全員の信念が貫かれた「14枚のスケッチ」は新市長の心を動かし、1億円の予算を獲得したのだ。

チャンスはいつ訪れるかわからない。ここから学べるのは、「いつ好機が訪れても対応できるように、事前の準備を欠かしてはならない」、ということだろう。

意識

Stocktrek Images/Stocktrek Images/Thinkstock
全員が共通の信念を持つ意識を醸成するべし

旭山動物園は廃園の危機を経て、「動物のすごさ、美しさ、尊さを伝える」という信念をより強固なものにした。旭山動物園の競争力は、この信念を実現するのは自分たちであるという意識が、強く現場に根差していることにある。

ではなぜ、旭山動物園の現場にその信念が根差しているのだろうか。本書では、大きく二つのポイントが語られている。一つ目は、「ワンポイントガイド」という取り組みだ。これは、飼育係員が担当する動物の魅力を来場者の前で語る取り組みである。ワンポイントガイドは飼育係員ひとりひとりが動物をより深く理解するきっかけとなり、信念が定着化していったという。二つ目は、役職名称の変更である。これまで飼育係員と呼んでいたのを飼育展示係員という名称に変更した。これによって、自分たちの仕事が単純に飼育だけをしていればいいのではない、という意識を喚起し、結果的に現場に信念が浸透していったのだ。

以上のように、信念を個々の意識にまで浸透化させるには、個々人が小さな行動を積み重ねることによるものと、担当業務を明確に示す名称を付与することによるものの2点が効果的である。

戦略

Eric Isselée/iStock/Thinkstock
ほかと同じものを作るべからず

コアラやパンダのような「スター」動物がいない北国の小さな動物園に、どうして年間300万人もの人が訪れるようになったのか。その秘密は、「行動展示」という展示手法にある。

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要約公開日 2013.11.27
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