本書は現ヤフー社長、宮坂氏の就任前後の逸話、ヤフーの改革内容が中心に語られており、その中で注目すべきは人にフォーカスが当たっていることだ。これは宮坂氏の考え方にもよるところであろう。このハイライトにおいても、極力人の紹介部分を残す形でどのような経営メンバーが参画し、活躍しているかも含めて紹介をしていきたい。
2011年10月26日に、ソフトバンク本社25階で開かれた孫氏主宰の社内大学「ソフトバンクアカデミア」での出来事が印象的だ。ある受講生が披露した前代未聞の発表に起因して、大きなうねりが動き出す。その発表内容は次のようなものである。
プレゼン冒頭で、スクリーンに「MOTTAINAI」という言葉と共に、笑顔を浮かべる黒人女性の写真が映し出される。投影されていたのは、ケニア出身の環境保護活動家、故ワンガリ・マータイという「モッタイナイ運動」と呼ばれる環境活動を行ったことで有名な女性である。
そしてこう続くのである。「私が今、非常にもったいないと思っているもの。それはヤフーの経営体制です!」スピード感の欠如、リスク回避志向、組織の縦割りの壁、優秀な社員の退職など、次々と述べられた。
「ううむ」孫氏はただ一言、短く唸ると、黙り込んだ。
2007年1月の米アップルによる「iPhone」の発表後、スマートフォンは今までのiモードと発想を逆転したインターネット端末に通話機能が付いたものとして本格的なデビューを果たす。2012年末、スマートフォン市場は2億1600万台を超す規模にまで成長し、その成長の勢いはパソコン市場を凌駕した。
これが業界を揺るがすほどのインパクトがあるデバイスなのか、単なるパソコンを小型化したものなのか、前社長である井上氏は当初「影響は限定的」と捉えていたようだ。しかし、現実は井上氏の読みとは異なり、スマートフォンが爆発的に普及、アプリの利用が主流となりブラウザーはアプリの1つに成り下がってしまった。
この変化はヤフーに甚大な影響を与える。ネット利用の中心がパソコンからスマートフォンに移れば、巨大な集客力をテコに広告収入を稼ぐというビジネスモデルの根幹が揺らいでしまうのである。あたかもクレイトン・クリステンセン教授がいう、「イノベーションのジレンマ」に陥ってしまったようだ。
宮坂氏は1997年、創業2年目のヤフーに53番目の社員として入社。顧客リスト片手に電話をかけまくり、アポなしで営業に飛び込む、攻めのタイプだ。
孫氏から社長就任の話が出された際には、即座に結論を出すことはできず、「一晩考えさせてください」と言ったものの、カリスマ的な経営者である井上氏の後を継いで、時価総額2兆円以上の巨大企業が率いられるのか悩んだ後、要請を受けることを決意する。
社長就任に当たり、孫氏と井上氏から「人事だけはおまえが納得するように決めた方がいい」と言われていたこともあり、宮坂氏はまず相棒探しを始める。
相棒に選んだのは7歳年下の男、川邊健太郎氏。
3,400冊以上の要約が楽しめる