伝説の灘校教師が教える一生役立つ学ぶ力

未読
伝説の灘校教師が教える一生役立つ学ぶ力
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著者
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伝説の灘校教師が教える一生役立つ学ぶ力
著者
出版社
日本実業出版社
出版日
2012年01月26日
評点
総合
3.5
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
3.0
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おすすめポイント

灘中・高校といえば、全国屈指の進学校として知られている。しかし、昔、灘校が「落ちこぼれ」が通う公立校の滑りどめにすぎなかったことはご存知だろうか。その灘校を東大合格者数全国一位に導いた伝説の教師がいる。それが本書の著者、橋本武氏である。では本書で語られる、橋本氏が50年に及ぶ灘校の授業を通して本当に伝えたかった「学ぶ力」とはどのようなものだろうか。

灘校というと、がり勉、詰め込み型教育と思われがちだが、実際は自由な校風で、教師も自由に授業ができたという。その校風の中で橋本氏は小説『銀の匙』を中学校3年間かけてじっくり読み込むという「奇跡の授業」を生み出した。後にスローリーディングと名づけられたその授業が生まれる過程や方法が描かれるとともに、授業の根にある「学びは遊び」「横道にそれる」といった一生役立つ「学ぶ力」について語られている。また、灘校での教育だけでなく、橋本氏の100年に及ぶ歩みについても詳しく書かれている。

人を育てる立場にある人は、本書から教育について発想の転換をするきっかけが得られるだろう。それらは読後すぐに実行できることも多い。さらに、人との関わり方や自分自身の成長についてヒントを得ることができる。そのため、子育てや教育に携わるひとだけでなく、成長を志向するすべての人の心に届く一冊である。

著者

橋本 武
1912年京都府生まれ。34年に東京高等師範学校(現在の筑波大学)を卒業後、旧制灘中学校の国語教師となる。小説『銀の匙』を中学校3年間かけて読み込むという授業を行い、公立校のすべり止めに過ぎなかった灘校を名門進学校に導く。68年には『銀の匙』3期生が私立高校としてはじめて「東大合格者数日本一」になる。84年に71歳で退職するまで50年にわたり灘校一筋で教壇にたった。退職後は文筆活動や地元のカルチャーセンターなどで講師をつとめる。本書が出版された2012年にも、100歳を目前にしながら現役講師として活躍していた。2013年9月に101歳で永眠。
教え子に、作家の遠藤周作、神奈川県知事の黒岩祐治、東京大学総長、最高裁判所事務総長、日本弁護士連合会事務総長などがいる。黒岩祐治氏の著書で紹介され、また自らテレビ番組に登場するなど、伝説の教師として広く知られるようになった。

本書の要点

  • 要点
    1
    灘校を全国屈指の進学校に導くきっかけとなった「伝説の授業」が生み出されるまでの背景、過程、授業方法、その授業で橋本氏が大切にしている考え方が描かれている。
  • 要点
    2
    「学ぶ」ことは「遊ぶ」こと、「横道にそれる」「意味がなくてもおもしろければいい」など、橋本氏独特の教育哲学が散りばめられている。
  • 要点
    3
    著者の蛙グッズの収集、茶の湯、お能、短歌・俳句づくり、宝塚観劇など幅の広い趣味は、本業にも深みを与えるとともに著者の人生を豊かにしている。

要約

【必読ポイント!】学ぶ力は一生もの

灘校一筋50年の伝説の教師

冒頭では、100歳を目前に控えた橋本氏が灘中学校の教壇に27年ぶりに戻ったエピソードが語られている。この授業で「学ぶことは遊ぶこと」「当たり前のことに疑問をもつ」「意味がなくてもおもしろければいい」「横道にそれる」といった橋本氏が大切にしてきた考え方が現在の生徒にも伝わったと実感している。

橋本氏は灘校で1934年から1984年までの実に50年間、国語教師として教鞭をとり続けた。その50年に及ぶ教師生活、また橋本氏の人生も振り返りつつ、人生を豊かにする「学ぶ力」とはどのようなものなのかを探っていこう。

東大合格者数全国一に導いたスローリーディング
Voyagerix/iStock/Thinkstock

東大合格者数全国一に導いた授業というと、スパルタで詰め込み型の授業を想像するかもしれない。しかし、後にスローリーディングと名づけられたその授業はそもそも生徒を東大に入学させるため、それどころか受験勉強のために生み出されたものではない。

授業は、橋本氏の「何とか生徒の心に残って、生きる糧となる授業がしたい」という願いから生まれている。きっかけは自分が受けた国語の授業の内容がほとんど記憶に残っていないことに愕然としたことだった。唯一記憶に残っていたのが小学校3年生のときの教科書を使わずに物語のみを使った授業だったことから、物語を教材にしようと決めた。そして決めた題材は、中勘助の小説『銀の匙』。更に橋本氏の手づくり副教材「銀の匙研究ノート」を準備する。そして、『銀の匙』を中学校3年間かけて読ませるのである。

「銀の匙研究ノート」には7つのステップがある。「通読」「主題」「内容の整理」「語句の意味」「注意すべき語句」「短文の練習」「鑑賞」「参考」である。

まず、各章を一通り読み(「通読」)、章ごとのタイトル決め(「主題」)、どんな順序で内容が書かれているか整理(「内容の整理」)、語句の意味を覚える(「語句の意味」)。注意すべき語句を自分で調べたり友人の意見を聞き、その語句をつかった短文を作り(「注意すべき語句」「短文の練習」)、感心した文を書き写してなぜ優れているかを考え(「鑑賞」)、「銀の匙研究ノート」にあらかじめ書かれてある関連事項をよく覚える(「参考」)というものである。ここで興味深いのは、文章を書くことを重視しており、その機会を多く作る構成となっている点であろう。

また、「銀の匙研究ノート」は「とにかく子どもたちが進んで面白がり、また、横道にそれるような要素」がふんだんに盛り込まれていた。例えば、凧揚げのシーンが出てくると外に出て凧揚げをし、駄菓子がでてくると駄菓子を食べ、百人一首がでてくれば百人一首大会をしている。勉強というと教師や参考書から得た知識を一人孤独に覚えるというイメージがあるが、「奇跡の授業」では、当たり前だと思っている言葉に立ち止まることやクラスでの話し合い、実際の経験が重視されていたのである。

「奇跡の授業」で大切にされている学ぶ力とは
Creatas Images/Creatas/Thinkstock

「奇跡の授業」の背景には、橋本氏の教育哲学ともいうべき信念がある。例えば、「横道にそれる」「遊ぶことは学ぶこと」「当たり前のことに疑問をもつ」「意味がなくても面白ければいい」「すぐ役に立つことはすぐ役に立たなくなる」などである。そして、それを実践することが一生役立つ学ぶ力を身につけるということだ。

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要約公開日 2014.04.30
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