哲学はヨーロッパ語系でPhilosophy。これは、Philo(愛する)とSophy(知)が合わせてできた言葉で、「知を愛する学」という意味だ。哲学者は、ものごとをよく知っている人ではなく、知らないということを自覚し、本当を知ることがいかに難しいかを知っている人だ。そして、哲学は、読み物ではなくて、哲学「する」こと、つまりものを深く考える、疑ってみる、物事の本質を見ようとする動きだと言える。
本書で紹介する哲学的思考は、常識や当然と思われていることを「そもそも、それは何だったのか」と疑うことから始まる。通常の学問は、土台を作りその上に体系を積み上げていくが、哲学はその土台を疑う。世の中の動きが安定していて、土台を疑う必要すらない時代であれば、哲学は余計かもしれない。しかし、科学とは、宗教とは、人間とは、と改めて問い直さなければならない今のような時代には、その根本をつかむために哲学的思考を使うべきなのだ。
哲学的思考は、今の時代にどのように使えるのか。本書では、今という時代を理解するために、テクノロジーを基軸にその大きな変化の根本を捉えようとしている。
近年のテクノロジーの進化が、この世の中を大きく変えてきたことは明白だ。コンピュータ、携帯電話、インターネットの出現により、これまで人類がやってきたこととは、まったく別次元のことが始まったと言える。
電話を例に人間関係の変化を考えると、携帯電話が登場する前は、電話は一家に一台で家の中心にあり、家族という単位で管理していた。それが、電話の子機の登場で自分の部屋でも電話をとれるようになり、携帯電話の出現により全く家族を通さずに個人と個人のコミュニケーションができるようになった。これは、テクノロジーが家族と個人の関係性を変えた例だ。
また、デジタル・ネットワークの成立による影響を考えると、意見を言う、考えを公表するという事の変化が挙げられる。以前は、世の中に公表される意見は新聞やオピニオンリーダーなどごく少数の人の考えを、一般の多くの人が受け取るという形であった。しかし、デジタル・ネットワークの成立によってすべての読み手が書き手になった。これもテクノロジーが従来の情報発信の仕組みを根本から変えた例だろう。
ここ50年ほどのテクノロジーの進化により、人間関係、考えの公表など、これまで当たり前と思っていたことが、根本的に変わってきた。現代とは何かを考えるために、この変化で起こっていることをきちんと捉えるためにも哲学的思考が必要なのだ。
哲学的思考を現代に当てはめて実際に使ってみるために、デジタル・ネットワーク時代をテーマにその変化の根本を考えてみたい。デジタル・ネットワーク時代は、すべての人やモノがネットワークでつながっている社会と言える。すべてがつながった社会では、人と人とのコミュニケーションはどうなるのだろうか。
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