本書は架空の主人公である西野ヒロシが歩む、高収入から低収入へのシフトを実行する道のりから、「少欲知足」の考え方を実践する『プア充』の生き方を学ぶものだ。
物語形式で書かれているので、ここではその一部を紹介しながら、主人公が如何にして「プア充」の考え方を学び、幸せを見出していくかに焦点を絞ってまとめたい。勝ち組や負け組と語られる世の中の既成概念に対して、健全な疑問を感じながら読み進めていただきたいと思う。それでは主人公の人生の転機について覗いてみよう。
主人公の西野ヒロシは、30歳でIT代理店の営業を担う。年収は450万円で平均より少し高い。そんな西野は今の会社の社長に言われた、「一流の生き方」をしたいと感じたのだ。
「人の何倍も働いて、人の何倍も稼いで、人の何倍も楽しむ。そんな一流の生き方をしたいなら、ぜひうちに来てほしい」
という言葉が入社に至った決め手である。元々は居酒屋チェーンに勤めていたが、IT企業の派手さ、女の子ウケの良さに憧れたことも転職の理由だ。そして転職から約1年半経った頃、合コンで知り合った21歳の女子大生リサと付き合うことになる。
しかし西野はリサに求められた誕生日プレゼントの指輪を買うため、預金残高をチェックして愕然とする。残高15万円。その金額は居酒屋チェーンで働いていた頃とほとんど変わっていなかったのである。
インセンティブ(報奨金)を受け取るためには、ノルマ達成が必要で、毎日終電まで働いているのに、だ。そこで西野はにわかに得体のしれない不安に襲われる。
「お金がないなら、もっと頑張って働くしかない。今まで以上に!」
そんな時、大学時代のゼミの同期会の話がくる。そこでゼミの教授島崎先生から興味深い話をされる。それは『年収300万円しか稼がないこと』により『プア充』の生き方をして、幸せに暮らすという考え方だ。
まず必要なお金に関する概念を壊す。島崎先生は日本では年収300万円もあれば、健全な暮らしができるという。会社はそもそも株主に利益をもたらすことを志向しているため、成長させていくことが使命。そして営業ノルマなどのプレッシャーが常に付きまとうのである。しかし個人としては、それに振り回される必要はない。
強い意志がなければ、年収300万円の次は350万円、400万円、500万円と際限なく欲求は膨らんでいく。更にストレスを溜めながらお金を稼ぐと、衝動買いや、エステ・マッサージ、タクシー代などの余分な出費が嵩むことになる。その次は夢のマイホーム、マイカーに誘導されていくのである。そのような幻想とも言える果てしない欲求を超えて、幸せに生きる方法はあるのだろうか。
西野が翌週月曜日に会社に行くと、オフィスが騒然としていた。高級ブランドの時計と名刺ケースを愛用し、革のビジネスバッグにタブレットを持ち歩く、「デキる男」の代名詞だった佐々木部長が倒れたというのだ。朝早く来て仕事をしていたところ、急にバタンと倒れ、救急車に運ばれたらしい。先日も六本木で接待のため徹夜で飲み、シャワーを浴びてそのまま会社に来ていたほどにパワフルだった人が、である。
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