チャールズ・ダーウィンといえば、生物の進化について記した偉大な名著『種の起源』 の著者としてその名を聞いたことがあるだろう。実は、彼は『人および動物の表情について』と題する独創的な本を出版し、この中に、世界で初めて感情に関する心理学的研究をおこなったという記述を残している。人間には、顔の表情から気持ちを読み取る能力があらかじめ脳に組込まれているというのだ。
ダーウィンのこの理論を自分の新しい感情理論の基礎に取り入れ大胆な仮説を組み立てた心理学者がいた。それがウィリアム・ジェームズである。彼は、人はほかの人の顔をみてその感情を読み取るように、自分自身の表情を感知して、自分がもつべき感情を判断するのではないかと考えた。つまり、あなたは「自分が楽しいから笑うのではなく、笑うから楽しくなる」という仮説だ。
そこでジェームズはすぐに試してみることにした。行動によって感情が生み出されるならば、人はあたかもそれを体験したかのように行動すれば、いかなる感情も生み出せるはずだ。「幸せになりたければ、すでに幸せであるかのように行動をすればいい」この単純な原理を著者は「アズイフの法則」と呼んでいる。
騙されたと思ってぜひ試していただきたい。人は笑顔を作ると幸せに、眉をしかめると不愉快に感じる割合が極めて高いという実験結果があるのだ。実験では、被験者に顔面筋肉の電気活動の数値を測定するため、電極を左右の眉と、唇の両端、顎の両端に取り付けると説明し(もちろん電極は偽物なのだが)、左右の眉の電極を近づけてもらうことで怒った顔をつくらせたり、唇の両端の電極を後ろに引いてもらうことで笑顔をつくらせたりした。被験者たちは顔の表情を変えたあと、どのような感情を感じたかをチェックしてもらうと、結果は前述のように明確であった。ところが、なぜそのような気持ちを感じたのかと訪ねると、それは自分が作った表情のせいだと答えた人はごくわずかで、多くの人は、自分の気持ちが変化した理由を全く説明できなかったという。
このアズイフの法則は、気持ちだけでなく、肉体にも変化を起こすのだろうか。それを調べた実験がある。まず、被験者には自分がこれまで怒りを感じた瞬間を思い出し、頭の中でそれを再現してもらう。そして、もうひとつ、単純に怒りの表情をつくってもらう。当然ながら、過去の恐怖体験を思い出すと被験者の心拍数はあがり、皮膚温度が低下するという身体の変化が現れた。そしてなんと、顔の表情を変えただけでもまったく同じパターンの生理変化が起きたというのだ。
つまり、「ある感情をあたかも実体験しているかのように行動すると、気分が変わるだけでなく、肉体にも強い直接的な影響があたえられること」が実証されたのである。
1995年、インドの開業医として働いていたマダン・カタリア医師は笑いに医療効果があることを知り、ある朝7時に近くの公園に出かけ4人の人におたがいにジョークを言って笑ってもらうことにした。
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