生き物たちの情報戦略

生存をかけた静かなる戦い
未読
生き物たちの情報戦略
生き物たちの情報戦略
生存をかけた静かなる戦い
未読
生き物たちの情報戦略
ジャンル
出版社
化学同人
出版日
2007年09月20日
評点
総合
3.0
明瞭性
3.0
革新性
3.0
応用性
3.0
要約全文を読むには
会員登録・ログインが必要です
本の購入はこちら
書籍情報を見る
本の購入はこちら
おすすめポイント

地球誕生から46億年の歴史の中で、じつに多様な生物が生まれ、その多様性を維持しながら生物は今日まで生存し続けてきた。遠い昔に誕生した生命が、連綿とその命をつないできた結果が今ここにある。

「生命」という高い秩序性を維持し、生命活動を営むためには、外部からのエネルギーの入手が不可欠だ。植物などの独立栄養生物は、自身で太陽エネルギーを利用してエネルギーを蓄える術を身につけた。これに対して、動物などの従属栄養生物は、他の生物を食べることで命を維持する。

この「食う食われる」の関係の中で、生物の情報処理系は複雑化を果たし、生物の種それぞれが独自の情報処理系を誕生させてきた。なかでも、自己犠牲の上にある利他的行動の出現は、その情報処理系をより一層、複雑化させた。そして、もっとも複雑化を果たしたヒトにいたっては、社会を形成し、個体の寿命を超えて生命体のように生き続ける「文化」というものを作り上げた。

生き物ってなんだ。生き物が知りたい。生き物である自分自身を知りたいと思って研究をつづける著者が、動物の驚異の能力を紹介しつつ、生物学全般から著者のもつ生物観まで旅行記風に綴った本書は、読み物調で楽しく気軽に読める一冊だ。是非、生物の不思議にふれ、著者のもつ生物観を共有いただきたい。

著者

針山 孝彦
1952年東京都生まれ。横浜市立大学卒業後、岡山大学臨海実験所で修士を取得、東北大学応用情報学研究所助手を経て、現在、浜松医科大学医学部総合人間科学講座生物学教授。理学博士(九州大学)。専門は動物生理・行動学。
タマムシやアオハダトンボ、フナムシ、ベニツチカメムシ、ホタル、ザリガニ、メダカなど多様な生き物を研究対象としている。視覚生理学を中心とした光生物学を発展させ、生物の情報処理の解析を背景とした環世界の理解をめざしている。最近の人心の荒廃は、ヒトも生物であるという視点を忘れた生活様式、社会体制が進んだ結果だと考えている。

本書の要点

  • 要点
    1
    生物は、太陽のエネルギーを取り込んだ独立栄養生物、さらにそれらを取り込んだ従属栄養生物をスクラップ・アンド・ビルドしながら生きている。
  • 要点
    2
    食物連鎖における「食う食われる」に代表される生き物たちの関係の中では、従属栄養動物はよりうまく獲物を獲得し、自身が獲物にならないように、その行動を進化させてきた。
  • 要点
    3
    社会性を獲得した種であるヒトについて、集団に規定される行動様式により文化を形成しており、それは「無形の生命」と考えることができる。

要約

太陽エネルギーの獲得と食物連鎖

KaterynaSednieva/iStock/Thinkstock
太陽エネルギーを取り込んだ有機物を、スクラップ・アンド・ビルドしながら生きている

原核生物の誕生、真核生物の誕生、さらに多細胞生物が獲得した移動性など、地球46億年の歴史の中で生物は多様性を維持しながら生存してきた。地球が氷で覆われる前は、シアノバクテリアや藻類のような太陽の光からエネルギーをつくり出す光合成を行う独立栄養生物のプランクトンが繁殖していた。

ところが、氷河期になり、これら光合成を行うプランクトンに十分に太陽光が当たらなくなり、浮遊性の栄養源が乏しくなるという事態が起こった。その結果、移動性をもつ多細胞生物が、栄養源となる堆積物の上を這い回ることで、エネルギーを効率よく獲得できるようになったと考えられている。

多細胞生物は移動のために「骨格」をそなえることで、より速く動けるようになった。食物連鎖の視点でみると、原核生物である光合成細菌やシアノバクテリア、真核生物である植物は、太陽エネルギーを光合成という形で取得する独立栄養生物である。それに対して、これを食べて生命を維持する従属栄養生物は消費者にあたる。従属栄養生物は、植物をおもな餌とする草食動物と、草食動物を食べる肉食動物、肉食動物を食べる肉食動物などに分けられる。

すべての生物が食べては分解し、細胞で吸収し栄養としているものは有機物である。有機物は、食物連鎖の始まりにおいて、太陽光を使った光合成により作られている。つまり『動物は、植物を取り込んでも動物を取り込んでも、もともとは太陽から降り注いだエネルギーを利用して合成された各種有機物を、スクラップ・アンド・ビルドしながら利用している』と言えるのだ。

「食う食われる」個体から環境変化に適応できる個体群へ

Tsekhmister/iStock/Thinkstock
環境変化に適応した効率的な情報戦略をもった生物が生き残る

それぞれの集団や種が、他とどのような関連をもっているかといった視点を中心にした学問が「生態学」だ。生態学は生物の相互作用の研究であると定義されてはいるものの、著者は『空間と物質(個体も含む)とエネルギーの経済学的モデルである』ことが多いと感じているという。

個体群の単位空間あたりの個体数は個体群密度といい、外的要因によって変動する。ひとつ例を出してみよう。バッタは大量発生すると、その個体間の密度が集団に影響を及ぼし、相変異を起こすのだ。

もっと見る
この続きを見るには...
残り2929/3908文字

3,400冊以上の要約が楽しめる

要約公開日 2014.06.24
Copyright © 2024 Flier Inc. All rights reserved.
一緒に読まれている要約
自分の体で実験したい
自分の体で実験したい
レスリー・デンディメル・ボーリング梶山あゆみ(訳)
未読
その科学があなたを変える
その科学があなたを変える
リチャード・ワイズマン
未読
カラスの教科書
カラスの教科書
松原始
未読
滅亡へのカウントダウン
滅亡へのカウントダウン
鬼澤忍(訳)アランワイズマン
未読
気候変動はなぜ起こるのか
気候変動はなぜ起こるのか
ウォーレス・ブロッカー川幡穂高(訳)眞中卓也(訳)大谷壮矢(訳)伊左治雄太(訳)
未読
響きの科楽(かがく)
響きの科楽(かがく)
ジョン・パウエル小野木明恵(訳)
未読
食べる人類誌
食べる人類誌
フェリペ・フェルナンデス=アルメスト小田切勝子(訳)
未読
やわらかな生命
やわらかな生命
福岡伸一
未読