やわらかな生命

未読
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やわらかな生命
ジャンル
出版社
文藝春秋
出版日
2013年08月09日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.5
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

生物を見て、それが「生きている」と感じるのはどんなときだろうか? 機械のように、生命を構成するパーツが1つ壊れてしまっても動かなくなることなく、怪我や病気をしても治るからだろうか? 食べたり、食べられたりしながら成長していくからだろうか。生命には「可変性と柔軟性」があり「生きているのを感じるのはそのやわらかさに触れた瞬間である」と福岡ハカセ(著者)は言う。

本書は「動的平衡」こそが生命の本質であると投げかけ、一世を風靡した福岡伸一氏が愛してやまない生命の「やわらかさ」を芸術的な語り口調で綴っている69話のエッセイ集である。テーマは様々だが、一貫しているのは生命が「可変性と柔軟性」に富んでいると記していることだ。本書では、実に多岐に渡るテーマについて取り上げられており、例えば花粉症と免疫について、本のカバーの表紙にもなっている細胞性粘菌の驚くべき変身生活について、生命にとっての「青色」について、細胞の世界地図作りについて、好きなことを学び続けることについて・・・極めてマニアックとも言える解説も随所に散りばめられていながら、わかりやすい例で紹介されているので、楽しく読むだけでなく、気づいたら深く、色鮮やかな生命の本質を知ることができる。

また、福岡ハカセのお話は科学だけに留まることなく、研究者=オタクとしてのこだわりの昆虫の話、フェルメールが好きすぎて銀座にあるフェルメール・センターの館長になってしまった話、スキーの話、最近話題の研究者の論文捏造と科学の話なども間に入っており、その趣味の多様性も垣間見られるのも面白い。

著者

福岡 伸一
生物学者。1959年東京生まれ。京都大学卒。青山学院大学教授。サントリー学芸賞を受賞し、ベストセラーとなった『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)、『動的平衡』(木楽舎)など、「生命とは何か」を動的平衡論から問い直した著作を数多く発表。ほかに『もう牛を食べても安心か』(文春新書)、『ルリボシカミキリの青 福岡ハカセができるまで』(文春文庫)、『生命と記憶のパラドクス』(文藝春秋)、『動的平衡2』、『フェルメール 光の王国』(ともに木楽舎)、『せいめいのはなし』(新潮社)、『福岡ハカセの本棚』(メディアファクトリー新書)、『生命の逆襲』(朝日新聞出版)など。

本書の要点

  • 要点
    1
    生命は環境に適応するために、形態や行動を変化させる可変性と、一部が欠損してもそれを補い全体を維持させる柔軟性に富んでいる特性を持つ。
  • 要点
    2
    科学研究は、査読という形態により信頼性が保たれているが、勘違いや捏造はヒトがおこなっていることもあり、なくなることはない。
  • 要点
    3
    生命には決して身体をつくる地図はない。遺伝子地図はあくまでカタログ。私たちをつくっている細胞は前後左右との関係性のみで判断し、身体が作られる。

要約

【必読ポイント!】生命は機械か?

BHFoton/iStock/Thinkstock
生命は寛容でありながらも、不寛容である

トレランス(tolerance)という言葉をきいたことがあるだろうか。寛容もしくは許容という意味である。例えば、フォールト・トレラント設計とは、銀行の口座やチケット予約管理など、大規模システムで使われている。部分的にどこかで問題が生じても、全体が機能停止に陥ることはなく、何とか持ちこたえるように予め設計されているのだ。飛行機や高級自動車などもこのような設計がされている。

この設計はいざというときに役立つのだが、それ以外のときは不要なお荷物になる。限られたパッケージの中でよりコンパクト、より軽量、より高機能を目指せば目指すほど冗長性を削ることになり、想定外のことが起きたときに脆弱性を露呈してしまう。さて、生命のシステムはどうか。まるでフォールト・トレランスなのである。胃を全部摘出したとしても、他の部位が消化機能を代替することで生きていける。平衡感覚をつかさどる三半規管の機能が怪我や病気で失われても、人間はちゃんと運動することができる。

これが生命の可塑性であり、機械にはない大きな特徴なのである。その一方で、花粉症や臓器移植の際に起こる拒絶反応のように、異物が入ってきた時は免疫系によって外部を拒絶する、不寛容さも兼ね備えており、生命の奥深さが感じられる。

粘菌や昆虫の生き様

粘菌は面白い生活環をもち、昆虫は世界の多様性の半数を占めている

生物学者である福岡ハカセは、様々な生き物を愛してやまない。

粘菌という不思議な生命体を知っているだろうか。通常はアミーバ運動といって、細胞の中に対流を作って、形を変えながら土の中を這って移動し、細菌を食べて生活している単細胞生物である。ところが、季節の変わり目などで飢餓状態になると、バラバラに生活していた単細胞たちが大集合するのだ。中心となる細胞めがけて四方八方から細胞が放射状に長い道をつくってもぞもぞ這って集まってくる光景は、それは見事だと著者は言う。

およそ10万個集まった細胞はひとつの大きなドーム状の塊から、時が来ると頭頂部から突起が現れ、なんとナメクジのような多細胞生物に変身するという。そして、光を求めてぬめぬめと移動する。明るい場所を見つけると、今度は高さ数ミリのミニチュアのスカイツリーのように、身体の一端を基礎にしながら他端を持ち上げるように立ち上がり、その頂点には丸い玉を乗せて塔をつくる。これは「子実体」と呼ばれ、丸い玉の中には植物がするように、たくさんの胞子が詰まっており、これが弾けて風に乗り、他の環境に移動していく。粘菌は、単細胞生物で始まりながら、動物的な多細胞生物、最後は植物的な子実体へと変貌を遂げていく、実にユニークでダイナミックな生き物なのだ。

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要約公開日 2014.05.09
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