ホモ・サピエンスが初めて姿を現してから、1815年頃に地球の人口が10億人に届くまで20万年近くかかった。1900年時点でもわれわれの人口は16億人に過ぎない。しかし、2011年には世界人口は70億人に到達しており、そのペースは多少減速したとはいえ、今世紀中には100億人にまで増えるとみられている。
最近まで人口が少なかった理由は単純で、人は生まれるのと同じくらいのペースで死んだからだ。数万年のあいだ人類の大半は1年以上生きることが難しく、1人の女性は7人の子供を産んだが生き残るのは2人というくらいに幼児死亡率も高かった。さらには14世紀半ばに猛威をふるい人類の4分の1を死に追いやったペストのように、伝染病の脅威が存在していたことも影響している。
最近になって人類が増加した原因は二つある。一つは医学の進歩だ。悪魔の病気と恐れられてきた天然痘は1796年にワクチンが発見され、世界で初めて撲滅された感染症だ。19世紀にはパスツールが狂犬病や炭疽病のワクチンを開発し、さらには病原菌による感染を妨げる低温殺菌法などを生み出した。20世紀にも様々な病気に対するワクチンや抗生物質の発明によって死亡率が下がり、1800年にはおよそ40年だった平均寿命は、現在では世界の多くの地域でほぼ倍になっている。今後マラリアやHIVの治療法が発見されれば、人口はますます増加するだろう。
だがここで考慮しなくてはならないのは、医学の進歩が必ずしも人類を救うわけではないということだ。子供を病気から守るための技術革新はさらなる人口増を招き、結果的に人類の絶滅を招きかねない。
人口が増加したもう一つの理由は食糧供給の増加だ。窒素が植物にとって必須の栄養素であることを突き止めた人類は、1913年に考え出されたハーバー・ボッシュ法によって人工肥料を生成し、空気中の窒素を捕らえ植物に与えることに成功する。高収量品種の導入や化学肥料によって穀物生産性を著しく改善させたいわゆる「緑の革命」は、「人口は食糧の供給力をつねに上回る速度で増加する」と主張したイギリスの経済学者マルサスの警告をしばし忘れさせてくれた。
しかしながら、食糧生産の改善は医学の発達と同じパラドックスを抱えている。多くの人が飢餓から救われることは、さらに多くの命を生み出すことに繋がり、人口問題をいっそう逼迫させることになるからだ。結局、「緑の革命」とは避けられない人口爆発を先延ばしたに過ぎないのかもしれない。
人口が増えればその分、老廃物や二酸化炭素が排出され、必要となる食料、燃料、生活空間、電気などのエネルギーが増える。こうした事態は飢饉、水不足、異常気象、生態系の崩壊、疾患の流行、減少する資源をめぐる戦争といった災厄を招きかねず、それらを避けるには人間がみずからの数を管理し、適正な人口に抑制する「家族計画」を推進しなくてはならない。
3,400冊以上の要約が楽しめる