自分の体で実験したい

命がけの科学者列伝
未読
自分の体で実験したい
自分の体で実験したい
命がけの科学者列伝
未読
自分の体で実験したい
ジャンル
出版社
紀伊國屋書店
出版日
2007年02月01日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

本書は危険も顧みず自分の体を実験台にする、そんな好奇心が人間の生存本能をも勝ってしまった「モルモット科学者」たちの物語を綴ったノンフィクションである。

程度の差はあれ、自分で試してみたいという感覚を持つのは、特別な科学者に限ったことではないだろう。みなさんもスポーツドリンクを飲み比べてみたり、いろいろな種類の健康食品を試してみたりしたことはないだろうか。それも立派な、自分の体を張った実験といえる。本書で紹介される科学者達もそれと大きく変わるわけではない。ただ、ちょっと危険の度合いが違うのだ。

本書では、「モルモット科学者」達がどのような実験を行い、それが社会にどのような影響を与えてきたかを紹介していく。自分に病原菌を注射したり、ウイルスを持った蚊にさされてみたり、消化のしくみを知るためにあれこれ飲みこんだり、吐き出したり・・・。

彼らは、その好奇心ゆえに自分を使って実験をする。健康な人体はどういう仕組みで動いているのだろうか。どのように病気になり、怪我をするのか。自分の専門分野であえば、その実験がどんなに危険であるかは、自分がいちばんよくわかっているはずだ。だからこそ、自分でやるのである。さて、本書を読み進めながら想像してみよう。向こう見ずな「モルモット科学者」と共に限界まで熱した部屋に座る、ロケットスレッドに乗る、ひとりきりで洞窟にこもる、加圧室に入っている等々。彼らはそのときの様子をさぞ、興奮気味に語ってくれることだろう。

著者

デンディ・レスリー
ニューメキシコ大学で生物学と化学の教鞭を30年近くとっている。著書にTracks, Scats, and Singsがある。本書のアイディアを思いついたのは1987年のこと。それから共著者のメル・ボーリングと10年以上の歳月をかけてこの本を仕上げた。
ボーリング・メル
中学・高校の教師、子ども文学ウェブサイトの編集者。著書にノンフィクションの絵本があり、また小説The Rainmakerの著者。

本書の要点

  • 要点
    1
    自己実験へと科学者を駆り立てるのは「知りたい」という強い好奇心である。
  • 要点
    2
    科学のために体を張ってきた人々がいるおかげで、私達の生活は直接的・間接的に様々な恩恵をうけている。
  • 要点
    3
    見事にうまくいった実験もあれば、失敗を通して医学の役に立った悲しい事例もある。
  • 要点
    4
    一歩間違えば命にかかわる自己実験だが、なくなることはないだろう。動物実験やコンピュータ・シュミレーションでは十分でない領域が、依然として多く残されているからだ。

要約

【必読ポイント!】痛みを征服した科学

Minerva Studio/iStock/Thinkstock
実験に没頭した2人の歯科医師

麻酔なしで抜歯に耐えることができる読者はいるだろうか。麻酔が存在しなかった頃の人々はどうしていたのだろう。実は、歯を抜く痛みよりも歯痛のほうがましといって、虫歯になろうと歯が折れようと、ひたすら我慢していたという。だが、2人のアメリカ人歯科医師、ホレス・ウェルズとウィリアム・トマス・グリーン・モートンが、自分を実験台にして麻酔を発見したため、世界が大きく変わった。

ウェルズとモートンは、ボストンで歯科医院を一緒に経営していた。ある日ウェルズは、別名「笑気ガス」と言われる亜酸化窒素を扱った公開実験を見てひらめいた。亜酸化窒素を吸った客が会場中を狂ったように踊り始め、すねに深い傷を負ったが少しも痛そうにしていなかったのだ。歯を抜くときに患者に笑気ガスを吸わせたらどうだろう。ウェルズは自分で亜酸化窒素を吸って歯を抜いてもらうのがいちばんだ、と自らを実験台にすることにした。

実際にウェルズが亜酸化窒素を吸い込むと、顔から血の気が失せていった。そこで歯をねじりながら引き抜いてもらう。この間ウェルズは痛みを感じなかったという。このとき彼は、亜酸化窒素が麻酔に使えると確信した。そして、亜酸化窒素の鎮痛効果を示す公開実験の機会を得るが、残念ながらウェルズは実験に失敗してしまい、完全に面目を失ってしまった。

一方、ウェルズのかつてのパートナーであったモートンは、麻酔として硫酸エーテルを用いることを検討していた。当初、実験はなかなか思うようにいかなかったが、原因はエーテルの純度にあるとわかると、モートンはすぐさま純粋なエーテルを手に入れた。そして、自分を実験台にして実験を成功させてしまった。

モートンの妻はその日のことをこう話している。「(中略)その晩おそくに帰宅した夫はひどく興奮していました。でも、うれしくてたまらない様子で、何があったのか落ちついて話せないほどです。私も気持ちが高ぶって、早く聞きたくて仕方がありません。夫はようやく自分の体で実験したことを話してくれました。彼がひとり研究室で死んでいたかもしれないと思うと、私は切なくなりました」。この時のモートンは、もはやだれも止められなかった。

名誉の陰の悲しい物語
RyanKing999/iStock/Thinkstock

更なる研究を重ねたのち、モートンはエーテル麻酔の公開実験に成功した。ウェルズの大失敗以来はじめて、麻酔ガスに対する見方が大きく変わった瞬間であった。

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要約公開日 2014.06.20
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