私たちは、日常様々な音に囲まれて生きている。その中でも、「音楽」は誰もが同じ音を用い、法則があり、鳴らすための専用の装置(楽器)がある。神に祈りを捧げたり、死者を弔ったり、今では日常生活の楽しみのために、常に音楽は人類のそばにあり、今の音楽理論は自然の法則や長年の経験値から心地よさや表現が追求されてきた結果の賜物だ。そしてその功労者には、科学者も含まれているのだ。
著者はまず、音楽がなぜ人類にとって特別なのかを示すため、第3章で音楽と雑音の違いについて取り上げている。音楽と雑音、同じ音なのに何が異なるのだろうか。音は人間にとって、危険を判断する材料として重要な役割を果たしてきた。音が鳴ると、耳には音の波が振動として近づいてくる。その正体は空気圧の変化だ。空気圧は上がったり下がったりを繰り返し、鼓膜にその振動が伝わる。
日常に起こる雑音と音楽の違いを著者はこう説明する。ドアを占める音が耳に届くとき、私たちはドアと錠、壁、蝶番のいくつもの波の振動が合わさった複雑で不規則な波を受け取っている。これが雑音である。私たちは日常生活でお湯が沸く音、バターをパンに塗る音など、膨大なこの振動のサンプルを蓄積することで身の回りの音を聞き分けているのだ。
一方で、音楽に使われる音は規則正しい。たとえばA(ラ)の音は一秒間で110回音の波が振動するので、Hz(ヘルツ)という単位で110Hzと表す。A(ラ)が110Hzと決められたのは、1939年に標準的な西洋の音が定められてからだ。以降、楽器は同じ基準で調律されるようになり、基準を同じくした規則正しい振動で鳴らされた音が重なっていくと、のちに解説される音階や和音のルールによって悲しげな音になったり、楽しげな音になったりする。ちなみに、鼓膜が反応できる音には限界がある。波の振動が速すぎたり遅すぎたりすると、鼓膜は適切に反応できない。1秒間に20回以上かつ2万回以下の振動が、人間が聞くことのできる音の範囲になるそうだ。
音楽がほかの音と異なる理由は音が規則正しく正確であるだけではない。「倍音」という音の存在によって、音の色がつくられるのだ。実は、楽器がA(ラ)の音を鳴らすとき、先ほどの解説のように単純には耳に届いていない。A(ラ)の音を出すと、その中で2倍(220Hz)、3倍(330Hz)などの整数倍の音もかすかに混じって届く。著者はこのことを、ブランコが大きく前後しているとき、その鎖が小刻みに揺れる様子に喩えている。倍音、と言われるこれらの音のおかげで、音には奥行きができる。「制御された方法で音を出すように設計された装置である」と著者が言うように、楽器によって音をつくる仕組みが異なるので、どの倍音を響かせやすいかが異なってくる。その違いが独特の音色をつくる要因の一つになるのだ。
フルートは円柱状の金属の筒に振動を生じさせることで音を響かせる。空気の塊があまりぶつからずに外に広がるので、基本周波数の2倍の倍音(オクターブ上の音)が目立って聞こえ、シンプルな波形になり、混じりのないまっすぐな音が届く。
一方でバイオリンは弦を弓でこすって振動させた波を、木製の胴に伝えて音を増幅させる。胴の中で様々な方向に広がった波は複雑に混ざり合い、複雑な音を持つことになる。こうした楽器の音の作り方の違いが、独自の「音色」を生むのだ。
オーケストラの演奏を聞いていると、バイオリンやピアノ、フルートなど、ソロの楽器とオーケストラの対比で曲が進むことがある。大勢の奏者が一斉に音を出すオーケストラに、なぜソロの楽器は負けないのだろうか。
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