カラスという鳥はいない。そのため、カラス研究者の前で不用意に「あ、カラス!」など言おうものなら、「何ガラス?ブト?ボソ?」と聞き返されてしまうので注意しよう。カラス科カラス属に含まれる、いわゆるカラスっぽいカラスは40種もいるという。さらに、カラス属には含まれない、カラス科は70種余りおり、彼らはニュージーランドと南極を除く世界中に分布している。カラス類の故郷はオセアニアと考えられているが、著者いわく、ニュージーランドにカラスが入らなかった理由は説明できないそうだ。
日本で記録されているカラス属は7種いるが、その中でも我々が最も普通に目にすることができるのはハシブトガラスとハシボソガラスだ。先に「ブト?ボソ?」と聞かれると書いたのはこのためである。ハシブトガラスは都市部でよく見かけられ、ハシボソガラスは河川・田園地帯に生息している。
ハシブトガラスとハシボソガラスは名前も似ているが、外見もよく似ている。「大きくて真っ黒な鳥」であることは間違いないのだが、よく観察してみると判別することができる。姿、形でいうと、名前のとおりくちばしの形で判別が可能だ。くちばしが長く、太くアーチ状になっているのがハシブトガラス、それに対してハシボソガラスのくちばしは曲ってはおらず、ストレートな形をしている。
また、鳴き声でも区別することができる。ハシブトガラスはいわゆるカラスの声で「カア、カア」と鳴く。一方、ハシボソガラスは「ガー、ゴアー」としゃがれた声で鳴くらしい。著者の言葉を借りれば、『ただし、ハシブトガラスの音声は非常に多彩で、怒ったときなど「ガラララ・・・」とハスキーな声もだすこともあるから要注意だ。ハシボソガラスが「カア」と鳴くことはない』そうだ。読者の方もぜひ「注意」して観察していただきたい。
著者の長年の経験による、図鑑にはあまり載っていない私的な見分け方も紹介されている。たとえば、歩き方だ。ハシブトガラスは、地上に降りた時にピョンピョン飛び跳ねるか、「よいしょ、よいしょ」と大義そうに歩くのに対し、ハシボソガラスは脚を延ばしてスタスタ歩き、急ぐ時は早足になる。
東京都心部においては、1960年代から70年代にかけてハシブトガラスが優勢となっているが、その他の日本国内の都市では2種が混じって生息しているのが普通らしい。世界的にみるとハシブトガラスは東南アジア方面の鳥であり、日本以外ではそれほど数も多くなく、山奥や森林の中で暮らしている鳥のため、本来、街なかでは見かけない鳥だという。そのため、日本以外ではあまり研究されていないというのが現状だ。実際、著者の共同研究者は台湾の研究者に「東京でカラスを観察するって、あれは山の鳥じゃないんですか」と言われたことがあるという。
3,400冊以上の要約が楽しめる