リーダーが自分の理念を貫こうとする場合には、様々な反独裁、反権力イデオロギーを破ることが求められる。著者はその反権力イデオロギーを4つのタイプに分けて分析している。
1つ目は「すりあわせ至上主義」。組織の意思決定がトップではなく、「すりあわせ」の専門スキルを持つ中間管理職によって担われているという点である。何をするにも「すりあわせ」が必要になるとともに、多くの部署が関わるケースが多く、結果として意思決定が異常に遅くなることが問題だ。多くの日本企業が、社内調整に時間を空費する「重たい」組織になってしまっているのである。
2つ目は、「『強みを生かす』というお題目」である。ここでは初期の段階で同等の性能を実現しながらも、競合他社にモバイルプロセッサーで抜かれてしまった日立製作所の例が挙げられる。「強みを生かす」ことで現状維持が正当化されている場合、トップが中間層に負けて組織が自己保全を図っているだけの可能性がある。特に「当グループの総力を結集する」という表現には注意が必要となる。本来プロの経営者にとっては、あくまで勝つことが目的のはずであり、強みを生かすのは手段なのだ。
組織文化と間違った権限委譲
まともな決断をするためには組織に染みついた慣性を打破する必要があるが、そこで反論に出てくるのが3つ目である、「組織文化のせいにする」イデオロギーである。社内慣習を固定的なものととらえ、変えられないものとして組織変革を拒むのである。
「日本の組織」だから東電が問題を起こしたのではなく、ベンチャー起業家であった東電の創立者の独裁力が3代目、4代目以降で失われたことが、組織退化につながったと捉えるべきだ。
4つ目は、権限委譲を「現場に丸投げ」と勘違いしてしまうことで、トップが宙に浮いてしまう「間違った権限委譲の信奉」である。日本企業では意思決定する権力が拡散してしまった結果、妥協の産物のような分厚い取り扱い説明書や、奇怪な日本商品が出来上がった。アップル商品のような、1人の意思決定者の意向が製品の細部にまで反映されている製品か、それとも多くの日本製品のように「中心がいない組織」で生み出された製品かが成否を分けている。
反権力イデオロギーを打破するには、理論武装と権力の「活用」が必須である。右肩上がりの高度成長期には強い権力での意思決定が不必要であったため、従業員のレベルは高いにも関わらず、受験エリートである意思決定者の独裁力は高くない、というのが日本の平均的組織の現状である。
自分の理想の実現には、社内の抵抗をイメージし、乗り越える方法を考える権力リテラシーが必要である。まず、権力とは腹黒い独裁者だけが特別に持つものではなく、本人が努力すれば普通の人でも握れるものである。自分の権力を確かなものにするためには、確固とした支持基盤を構築し、自分の命令を組織の末端まで聞かせることが重要となる。太陽王と呼ばれたルイ14世も、自分で選んだ支持勢力を立ち上げ、古くからの勢力の権力を削ぎ、自分の権力基盤を確実なものにしていた。一見些細な、味方を作るための細かい工作を積み重ねているのである。
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