事実はなぜ人の意見を変えられないのか

説得力と影響力の科学
未読
事実はなぜ人の意見を変えられないのか
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説得力と影響力の科学
未読
事実はなぜ人の意見を変えられないのか
出版社
出版日
2019年08月30日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

会社の上司に企画を面白いと思わせるには、あるいは聞かん坊の子どもにじっとしてもらうには、どうすればよいのか。その根底にあるのは、うまい広告に乗せられて特定の商品を買う人が増えたり、ヒトラーの演説に人々が熱狂したりする仕組みと、じつのところ同じなのかもしれない。結局は、いかに人間の脳が行動を操っているか、ということだ。

本書は膨大な実験や神経科学のデータを用いて、それまで有効だと信じられてきた方法が、実際は役に立っていないことを次々と明らかにしていく。さまざまな事例が紹介されているので、それらを追体験することで、より深く人間の特性を理解できるようになるだろう。自分のとっていた行動の愚かさにもハッとさせられるはずだ。

またどういった脳の機能が人の行動に影響を及ぼしているのかも、本書は明らかにしている。そこにあるのは、脳の機能に沿った行動をするか反した行動をするかで、人の意見や反応は変わるというシンプルな結論だ。「正論」を掲げるだけでは、人を変えることはできない。本書を読むことで、その事実をあらためてつきつけられた。

これはいわば人間の設計図、その断片だ。人の動かし方を知りたいとき、そして自分がどう動いているのかを知りたいとき、かならずやあなたの力になってくれることだろう。

著者

ターリ・シャーロット (Tali Sharot)
ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン教授(認知神経科学)、同大学「アフェクティブ・ブレイン・ラボ」所長。意思決定、感情、影響の研究に関する論文を、ネイチャー、サイエンス、ネイチャー・ニューロサイエンス、サイコロジカル・サイエンスなど多数の学術誌に発表。神経科学者になる前は金融業界で数年間働き、イスラエル空軍で兵役も務めた。現在は、夫と子供たちとともにロンドンとボストンを行き来する生活を送っている。主な著作に『脳は楽観的に考える』(斉藤隆央訳 柏書房)がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    他人の考えに影響を与えられるかどうかも、他人の影響で自分の行動が変わるかどうかも、相手の脳の働きに寄り添えるかどうかが決め手になる。
  • 要点
    2
    アイデアを伝える最も効果的な方法のひとつは、それを伝えたい相手と気持ち(感情)を共有することだ。
  • 要点
    3
    他人から与えられるものよりも、自分が「選択した」「関わった」という感覚を得られる経験の方が、人は高い満足を得られる。
  • 要点
    4
    大抵の人は「自分は他人に影響を受けにくい」と考えがちだが、実際は無意識下で影響を受けている。

要約

信念を動かす感情

それでは他人を変えられない

他人の考えに影響を与えられるかどうか、あるいは他人の影響で自分の行動を変えるかどうか、それぞれの決め手は何か。

何百万年という人類の歴史において遺伝情報に刻まれた行動の原理が理解できれば、他人の反応をより正確に予測できるかもしれない。その観点でいくと、「他人の考えや行動を変えられる」と多くの人が信じている方法は、じつは間違っていることに気づく。そうではなく、相手の脳の働きに寄り添う必要があるのだ。本書では、その仕組みを明らかにする。

信念の強い人ほど……
SIphotography/gettyimages

誰かと言い争いになったとき、人は「自分こそが正しく、相手は誤っている」と考え、攻撃材料を探す。しかし大抵の場合、それで意見がまとまることはない。相手が正しいと思っている事実や数字、データを聞いても、人は意見を変えにくいのだ。

高度に発達したインターネット社会では、いくらでも自分の意見を補強する情報が手に入る。そうした情報は両極化を招きやすい。なぜなら自分の持っていた世界観(「事前の信念」)に合う情報には賛意を示す一方で、自分の意見を否定するような情報には拒否反応が出るからだ(ブーメラン効果)。その結果、さらに自分の意見に固執するようになってしまう。

自分の意見を裏付けるデータばかり集めてしまうことを「確証バイアス」というが、このバイアスから逃れるのはなかなか難しい。しかも分析能力が高い人ほど、情報を合理化して都合よく解釈しがちだ。そういう人は、「事前の信念」がしっかりしていて、それを支える証拠に対する確信も強い。そうなってくると、事前の判断が予測の立て直しを阻害してしまう危険性も出てくる。たとえその判断が、経済的な負担をもたらしかねないとしてもだ。

感情で心が通い合う
Dmitrii_Guzhanin/gettyimages

凝り固まった信念に対処するヒントとなるのが「感情」だ。

多くの人を感動させる演説やコンサートのように、強力に感情を動かすものを受け取る側の脳は、「歩調を合わせている」。文字どおり、脳波の上がり下がりや脳の活動領域が、ほとんど同期しているのだ。この現象は物理的な刺激に対してだけでなく、物事の関連付け、感情の生成や処理、他人への共感に不可欠な領域でも見られる。

脳の大部分は、興奮を伝達する扁桃体を中心として、感情を喚起する出来事に対してすぐさま反応を返すようにできている。そうして無意識に、多くの人が似通った行動に駆り立てられる。

双子でなくても、他人同士の「心が通い合う」瞬間は訪れる。このとき話し合っている相手の脳にはカップリングが起きており、聞き手が話し手の脳の動きを先導しさえする。そのほうが効率的だからだ。そこに感情が伴うと、より時間も手間もかけずに影響を与え合うようになる。

わたしたちは、自分自身を他人とは違う存在だと思っている。しかし実際は、脳の構造や機能の大部分が似ている。だからアイデアを伝える最も効果的な方法のひとつは、伝えたい相手と気持ちを共有することなのだ。

【必読ポイント!】 やる気にさせるメカニズム

アメとムチの使い分け

「病気にかかるから」と言っても、人に手を洗わせるのは意外に難しい。どうすればよいだろうか。

じつは即時的な「アメ」のほうが、将来の「ムチ」よりも人を動かせることが多い。自分のプラスになると信じる人間や出来事に接近することを「接近の法則」、マイナスになると信じるものを回避することを「回避の法則」と呼ぶ。

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要約公開日 2020.01.07
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