他人の考えに影響を与えられるかどうか、あるいは他人の影響で自分の行動を変えるかどうか、それぞれの決め手は何か。
何百万年という人類の歴史において遺伝情報に刻まれた行動の原理が理解できれば、他人の反応をより正確に予測できるかもしれない。その観点でいくと、「他人の考えや行動を変えられる」と多くの人が信じている方法は、じつは間違っていることに気づく。そうではなく、相手の脳の働きに寄り添う必要があるのだ。本書では、その仕組みを明らかにする。
誰かと言い争いになったとき、人は「自分こそが正しく、相手は誤っている」と考え、攻撃材料を探す。しかし大抵の場合、それで意見がまとまることはない。相手が正しいと思っている事実や数字、データを聞いても、人は意見を変えにくいのだ。
高度に発達したインターネット社会では、いくらでも自分の意見を補強する情報が手に入る。そうした情報は両極化を招きやすい。なぜなら自分の持っていた世界観(「事前の信念」)に合う情報には賛意を示す一方で、自分の意見を否定するような情報には拒否反応が出るからだ(ブーメラン効果)。その結果、さらに自分の意見に固執するようになってしまう。
自分の意見を裏付けるデータばかり集めてしまうことを「確証バイアス」というが、このバイアスから逃れるのはなかなか難しい。しかも分析能力が高い人ほど、情報を合理化して都合よく解釈しがちだ。そういう人は、「事前の信念」がしっかりしていて、それを支える証拠に対する確信も強い。そうなってくると、事前の判断が予測の立て直しを阻害してしまう危険性も出てくる。たとえその判断が、経済的な負担をもたらしかねないとしてもだ。
凝り固まった信念に対処するヒントとなるのが「感情」だ。
多くの人を感動させる演説やコンサートのように、強力に感情を動かすものを受け取る側の脳は、「歩調を合わせている」。文字どおり、脳波の上がり下がりや脳の活動領域が、ほとんど同期しているのだ。この現象は物理的な刺激に対してだけでなく、物事の関連付け、感情の生成や処理、他人への共感に不可欠な領域でも見られる。
脳の大部分は、興奮を伝達する扁桃体を中心として、感情を喚起する出来事に対してすぐさま反応を返すようにできている。そうして無意識に、多くの人が似通った行動に駆り立てられる。
双子でなくても、他人同士の「心が通い合う」瞬間は訪れる。このとき話し合っている相手の脳にはカップリングが起きており、聞き手が話し手の脳の動きを先導しさえする。そのほうが効率的だからだ。そこに感情が伴うと、より時間も手間もかけずに影響を与え合うようになる。
わたしたちは、自分自身を他人とは違う存在だと思っている。しかし実際は、脳の構造や機能の大部分が似ている。だからアイデアを伝える最も効果的な方法のひとつは、伝えたい相手と気持ちを共有することなのだ。
「病気にかかるから」と言っても、人に手を洗わせるのは意外に難しい。どうすればよいだろうか。
じつは即時的な「アメ」のほうが、将来の「ムチ」よりも人を動かせることが多い。自分のプラスになると信じる人間や出来事に接近することを「接近の法則」、マイナスになると信じるものを回避することを「回避の法則」と呼ぶ。
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