現在の日本社会は「持続可能性」という点において、危機的と言わざるを得ない。まず財政的な問題がある。政府の債務残高は1000兆円と、国際的に見ても際立って高い。これは膨大な借金を将来世代にツケとして残しているということである。格差拡大と人口減少も問題だ。現在はとくに若者の雇用や生活が不安定になっている。これが未婚化・晩婚化の背景となり、少子化を招いている。さらに現代日本人には「つながり」を失い、社会的に孤立している人が多い。日本にかつてあった農村社会などの共同体が崩壊した一方で、いまだそれに代わるコミュニティが構築できていないのだ。
日本社会の持続可能性を維持するシナリオとしては、「都市集中型」か「地方分散型」が考えられる。「都市集中型」のシナリオの場合、都市の企業が主導する技術革新により、人口が都市に一極集中し、地方は衰退する。出生率の低下と格差の拡大がさらに進行し、個人の健康寿命や幸福感は低下するだろう。その一方で、政府支出が都市に集中することにより、政府の財政は持ち直すと想定される。
「地方分散型」シナリオでは、地方への人口分散が起き、出生率が回復する。格差が縮小し、個人の健康寿命や幸福感が増大する。ただしこのシナリオは、政府の財政や環境を悪化させる可能性がある。ドイツなどヨーロッパでは、すでに地方分散型の都市デザインが進んでいる。
日本の持続可能性を維持するには、地方分散型社会が望ましいというのが著者の考えだ。
2005年、日本の人口は初めて減少に転じた。2008年をピークに、2011年以降は減少し続けている。人口減少社会にはさまざまな問題があるが、いまは文字通りの「ターニング・ポイント」であり、「真の豊かさ」に向けた新たな出発の時代とも言える。
急激な人口増加の時代は、日本社会が集団で一本の道を登る時代と表現できる。それは画一化が進み、集団の同調圧力が強い時代だ。一方で人口減少社会は、このような強力で一元的なベクトルから人々が解放された時代である。元号と結び付けて考えるならば、昭和が人口増加とともに「限りない拡大・成長」を志向した時代、平成がバブル崩壊や人口減少社会へ移行した変容の時代だったといえる。そして令和は本格化する人口減少に向き合いつつ、そこにいくつものポジティブな可能性を見出し、成熟社会の真の豊かさを実現する時代として捉えるべきだろう。
近年「幸福」というテーマが、さまざまな分野で関心を集めている。複数の社会的指標を組み合わせ、各国の幸福度を評価する試みが行われているが、幸福度において日本は低いポジションにある。その原因として考えられるのが、「社会的サポート」や「多様性」という項目におけるパフォーマンスの低さだ。日本は経済的、物質的な豊かさを追求するなかで、大事なものをないがしろにしてきたのではないか。
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