企業がWebサイト、アプリ、ネット広告、SNS、メールなどといったデジタルをマーケティングに活用するとき、必ず知っておかなければならない「定石」がある。本書で紹介される「定石」は、従来の顧客接点をデジタルに置換し、大幅なコスト削減を実現する施策だ。
デジタルを活用するといっても、ほとんどの人はデジタルに「できること」と「できないこと」を区別できていない。たとえば人材紹介サービス会社による求職者向けの情報サイトの場合、求職者の登録率が高く、売り上げを最大化できるのは、まず会員登録させてから求人情報を開示する「会員登録型」だ。このタイプは、Webサイト上に求人情報が多数掲載されている「求人検索型」のサイトより、登録者数も売上も2倍以上多くなる。「求人検索型」は、求職者のニーズを満たしているように見えて、リアルなユーザ行動に合っていないのだ。
「求人検索型」のサイトが良くない理由は、会員登録までのハードルが高いからだ。転職サイトを初めて訪れたユーザは、サイト内でおもしろそうな仕事を見つけたとしても、今すぐ応募しようとは思わないだろう。いくつかの求人を見るものの、これと決められず、諦めて離脱してしまう可能性が高い。初めてWebサイトを訪れた求職者に対して、自ら求人を見つけてもらうというコミュニケーションは、デジタルには「できないこと」だ。
一方で、会員登録型はハードルが低い。ユーザは、「ひとまず登録しておいて、本格的に転職活動を始めるタイミングで具体的に相談しよう」と考えてくれる。
それでも、世の中には多くの「求人検索型」サイトがある。企業担当者がデジタルの特性を理解していないからだ。
デジタルに関わったことがない人ほど、デジタルでどんな課題も解決できるという幻想を抱きがちだ。しかしそれは、大きな誤りである。デジタルは既存のビジネスの機能を代替する「手段」の一つにすぎない。既存のビジネスを理解し、その機能をいかにデジタルで代替できるかがカギとなる。
デジタル最大の制約は「3秒以上の営業トークは無視される」ことだ。対面の営業なら、商談中に何度でもリカバリーできるだろう。一方、デジタルにおいては、ほんの少しでもユーザの期待とずれた話をすれば、ユーザは遠慮なく去っていく。しかもデジタルでは、ユーザに新しい気付きを与えることはきわめて困難だし、感情に訴えることもできない。
デジタルにできることは、ユーザの期待に応えることだけだ。それができて初めて「3秒以下の営業トーク」が許される。そのため「3秒」で何を伝えるかが、デジタルで最も重要な検討事項の一つになる。
しかしここで2つ目の制約、「ユーザの顔がまったく見えない」が問題となる。デジタルでは、ユーザの行動履歴である「データ」はいくらでも手に入るが、行動の「理由」まではわからない。
ユーザの行動の「理由」を知りたいとき、最も有効なのは「アンケート」と「行動観察」である。「アンケート」で訪問理由を尋ね、誰に対して3秒の営業トークを準備すればいいかのヒントをつかむ。
次に「行動観察」で、アンケートで回答してくれたユーザの中から、ターゲットに近い人を呼んで、自分の目の前で普段通りWebサイトを使ってもらう。そうすれば、アンケートではわからない、デジタル上でのユーザの心理変化を知ることができる。
スピーディに人を集められるような「爆発力」がないのも、デジタルの限界の一つだ。たとえば「検索」でサイトの訪問数を伸ばすには、1つのキーワードに対して3,000字から5,000字程度の文章があるページが必要となる。1キーワードで100人呼べるとしても、10万人を呼ぶには1,000個のキーワードに対応するページを用意しなければならない。
では、「広告」はどうか。これも難しい。
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