MIT マサチューセッツ工科大学 音楽の授業

世界最高峰の「創造する力」の伸ばし方
未読
MIT マサチューセッツ工科大学 音楽の授業
MIT マサチューセッツ工科大学 音楽の授業
世界最高峰の「創造する力」の伸ばし方
未読
MIT マサチューセッツ工科大学 音楽の授業
出版社
出版日
2020年09月20日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

タイムズ紙が毎年行っている世界の高等教育ランキング。2019年度の「芸術・人文学分野」では、マサチューセッツ工科大学(以下MIT)が第2位にランクインした。理系大学の最高峰であるMITが、文系学部でも高い評価を得たことは驚きに値する。

MITは創立時よりリベラルアーツに力を入れており、近年はさらにその傾向を強めている。学生たちも人文学や芸術科目を積極的に履修しており、中でも音楽の人気は高まる一方だ。現にこの10年で音楽科目履修生が50%増加しているという。

MITの音楽授業は「科学技術者の卵たち」にどんな影響を与えているのだろうか。イノベーションを生み出すにはバイアス・ブレイク(制約を外すこと)が欠かせない。音楽は人類の歴史とともに存在した、最もプリミティブな芸術のひとつである。その音楽が科学技術という最先端分野を学ぶ学生たちに刺激を与えた結果、なんらかの化学反応が起こることは想像に難くない。昨今話題のデザイン思考やアート思考も、この流れを汲むといえるだろう。

本書では、MITの歴史・教育方針から音楽科目の授業内容、担当教諭へのインタビューなどがたっぷりと紹介されている。いずれも入念な取材に基づいた内容で、本全体から著者の熱量が感じられる。ぜひ本書を一読して、理系・文系を超えた先にある「創造の源」にふれてみてはいかがだろうか。

ライター画像
矢羽野晶子

著者

菅野恵理子(すがの えりこ)
音楽ジャーナリストとして海外での豊富な音楽教育取材・国際コンクール演奏評をもとに、音楽で人を育て、社会を繋げることをテーマとして調査研究・執筆・講演などを行っている。著書に『ハーバード大学は「音楽」で人を育てる』『未来の人材は「音楽」で育てる』(共にアルテスパブリッシング)。オンライン連載に『海外の音楽教育ライブリポート』(ピティナHP)などがある。
上智大学外国語学部卒業。在学中に英ランカスター大学へ交換留学し、社会学を学ぶ。
全日本ピアノ指導者協会研究会員。

●ホームページ
https://www.erikosugano.com/

本書の要点

  • 要点
    1
    「理論と実践を同等に重んじる」ことを教育理念として掲げているMITは、創立時よりリベラルアーツ教育を重視してきた。
  • 要点
    2
    この10年で音楽科目を履修する生徒が50%増加した。多くの学生が、世界の問題を創造的に解決するには、芸術や人文学の経験が必要であると認識している。
  • 要点
    3
    専門領域を超えた幅広い分野を学ぶことは、「可能性の空間」を広げ、イノベーティブな人材になることにつながる。

要約

理系最高峰MITで音楽が学ばれる理由

人文学的な観点から見るAI
tupungato/gettyimages

MITは2019年、最新のコンピューター学校(シュワルツマン・コンピューティング・カレッジ、以下SCC)を創設した。既設のコンピューターサイエンス、人工知能研究、情報処理などの科目を統合し、新たな視点を加えた総合的教育・研究機関である。コンピューティングと他の学部の知を連携させて、よりよい社会構築を目指すプログラムを想定している。

SCCの創設にあたり、メリッサ・ノーブルス人文学研究科長・政治科学教授から次の問いが投げかけられた。「コンピューティングとAIを、人文学的な観点からどう考えるか」

この問いの前提には、「AI時代において、我々は人間でいられるか?」「より人間らしく、より公正で、持続可能な社会を創ることができるか?」という問題意識がある。同教授の答えは、慎重な楽観性を伴った「YES」である。その理由は、これまで人間が度重なる技術革新により、新たな成熟のステージにたどり着いてきたからだ。しかし同時に、最新技術は社会的・倫理的意味合いを考察しながら、意識的に人間の中心的価値と結びつける必要があるという。

リベラルアーツ教育重視のMIT

「理論と実践を同等に重んじる」。これがMIT創立時からの教育理念である。MITの開校は1865年にさかのぼり、「技術的訓練と幅広い教養を統合した人材育成」を掲げて、「もの創り」精神を大切にしてきた。開校当初より数学、物理科学、政治科学などの学科があり、1884年には後に音楽学科へと発展する、初の音楽グループが結成された。

1930年代に人文学部を創設、1950年には「人文学・社会学学部」を設立し、科学や工学とのダブルメジャーも可能となった。1970年代には人文学、芸術、社会科学から最低1科目ずつの履修が義務づけられた。そして1980年代以降、芸術重視の傾向をさらに強めている。

現在、全学部生4000名のうち、毎年1500名ほどが音楽科目を履修している。この10年で音楽科目履修生は50%増加した。なぜこれほど多くの学生が音楽を学ぶようになったのか。音楽学科長のキーリル・マカン先生によると、問題を創造的に解決するにはアートや人文学での経験が必要だと、多くのエンジニアが認識するようになったからだという。テクノロジーの発達で生じている問題の多くは、人間性への理解や関心の欠如などに起因している。それを補強するために音楽の重要性がより高まっているというのだ。

音楽の授業紹介(1) 人間を知る

世界各国の文化を体感する「ワールドミュージック」
klazing/gettyimages

ここからはMITの音楽学科の開講科目から、その一部を紹介する。まずは世界の民俗音楽や伝統楽器に触れる「ワールドミュージック入門」だ。この授業では、文化の多様性や地理的広がりを学ぶ。授業は毎週90分×2回(レクチャー&ワークショップ)で、舞踊家や民俗音楽学者などのゲストアーティストを招いて、講義や演奏をしてもらうこともある。

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要約公開日 2020.12.22
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