MITは2019年、最新のコンピューター学校(シュワルツマン・コンピューティング・カレッジ、以下SCC)を創設した。既設のコンピューターサイエンス、人工知能研究、情報処理などの科目を統合し、新たな視点を加えた総合的教育・研究機関である。コンピューティングと他の学部の知を連携させて、よりよい社会構築を目指すプログラムを想定している。
SCCの創設にあたり、メリッサ・ノーブルス人文学研究科長・政治科学教授から次の問いが投げかけられた。「コンピューティングとAIを、人文学的な観点からどう考えるか」
この問いの前提には、「AI時代において、我々は人間でいられるか?」「より人間らしく、より公正で、持続可能な社会を創ることができるか?」という問題意識がある。同教授の答えは、慎重な楽観性を伴った「YES」である。その理由は、これまで人間が度重なる技術革新により、新たな成熟のステージにたどり着いてきたからだ。しかし同時に、最新技術は社会的・倫理的意味合いを考察しながら、意識的に人間の中心的価値と結びつける必要があるという。
「理論と実践を同等に重んじる」。これがMIT創立時からの教育理念である。MITの開校は1865年にさかのぼり、「技術的訓練と幅広い教養を統合した人材育成」を掲げて、「もの創り」精神を大切にしてきた。開校当初より数学、物理科学、政治科学などの学科があり、1884年には後に音楽学科へと発展する、初の音楽グループが結成された。
1930年代に人文学部を創設、1950年には「人文学・社会学学部」を設立し、科学や工学とのダブルメジャーも可能となった。1970年代には人文学、芸術、社会科学から最低1科目ずつの履修が義務づけられた。そして1980年代以降、芸術重視の傾向をさらに強めている。
現在、全学部生4000名のうち、毎年1500名ほどが音楽科目を履修している。この10年で音楽科目履修生は50%増加した。なぜこれほど多くの学生が音楽を学ぶようになったのか。音楽学科長のキーリル・マカン先生によると、問題を創造的に解決するにはアートや人文学での経験が必要だと、多くのエンジニアが認識するようになったからだという。テクノロジーの発達で生じている問題の多くは、人間性への理解や関心の欠如などに起因している。それを補強するために音楽の重要性がより高まっているというのだ。
ここからはMITの音楽学科の開講科目から、その一部を紹介する。まずは世界の民俗音楽や伝統楽器に触れる「ワールドミュージック入門」だ。この授業では、文化の多様性や地理的広がりを学ぶ。授業は毎週90分×2回(レクチャー&ワークショップ)で、舞踊家や民俗音楽学者などのゲストアーティストを招いて、講義や演奏をしてもらうこともある。
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