個人の人生を「全体」としてとらえ、一つ一つの行動や反応、欲求に、その人の人生に対する考え方が表れる――これが「個人心理学(アドラー心理学)」の考え方だ。
個人心理学は、人が持つ「不可思議で創造的な力」を理解しようという取り組みから発展した。その力は、成長したい、がんばりたい、成功したいといった欲求や、ある失敗を別の成功によって埋め合わせたいといった欲求に表れる。
たとえば犯罪心理学において、「犯罪者」よりも「犯罪行為」のほうに注意を払うのはばかげたことだ。犯罪行為をその人の人生の一コマとみなさない限り、その意味を理解することはできない。大事なのは、犯罪者の個人的な事情を理解すること、つまり、その人のすべての行為や活動の方向を決定づけている「人生の目標」を知り、さまざまな行為の裏にある隠れた意味を理解することだ。
人は、抱えている欠陥や問題を克服するために、将来に向けた具体的な目標を決める。将来の成功を頭に描けば、今の苦しい状態を乗り越えられると考えるのだ。
人は幼少のころから、そうした「目標」を決め、具体的な「形」にする。そして4、5歳までに、大人になったときのパーソナリティーの「原型(プロトタイプ)」のようなものが作られる。この「原型」には子どもの「目標」が反映されており、「原型」が作られることによって人生の方向性が定まる。だから、子どもののちの人生に起こることを予測することも可能だ。
方向性が定まると、その子どもの「統覚(独自のものの見方)」は「型」にはまったものになる。つまり、自分が置かれた状況をありのままに受けとめるのではなく、自分の「統覚の枠組み(ものごとを判断する枠組み)」の中で受けとめるということだ。欠陥のある器官を持つ子どもは、すべての体験を、欠陥のある器官の機能と結びつけて考える。胃腸の弱い子どもは、食べることに強い関心を示すといった具合だ。
個人心理学を通じて人を教育したりケアしたりするには、相手にどのくらい「共同体感覚」があるかを理解しておく必要がある。ここでいう「共同体感覚」とは、自分のことだけではなく、まわりの人たちにも関心があることを示す感覚のことだ。共同体感覚のある人は、困難なことにぶつかっても、それを乗り越えられる自信がある。人生における困難なことは、すべて対人関係の問題に行き着くからだ。
相手の共同体感覚を把握したら、次は、その人の「感情」を調べる。人はつねに、自分の考え方を「感情」によって正当化しようとするものだ。
最後に、その人の「原型(子ども時代に作られるパーソナリティーのひな型)」を分析する。
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